COLUMN

第371回 新人育成を考える

 ちょくちょく話題にしてる「新人を面倒みてる」という話。以前語った内容と一部重なるかもしれませんがご容赦ください。もともとガイナックスやその他の会社でも作画・演出問わず何人か面倒みてきた俺ですが、自分は決してロボットや爆発なら誰にも負けない○○さんや、テンションの満ち引きで描いたり描かなかったりする某氏、はたまた年収の半分以上を自費出版の原画集ではじき出す事ができるカリスマのように、生まれながらの天才アニメーターじゃないからこそ「技術を他人(ひと)に教える」という事に興味があるんだと思います。天才アニメーター△△氏に言わせると「教えて巧くなるアニメーターなんているわけない、俺は天才しか相手にしない!」だそうです。これに似た事を言う人、結構いました。でも俺は

教えたって天才は生まれるハズないけど、ある程度は巧くする事はできる!
てか、そもそも人は天才である必要すらない!

と思ってます。これは自分自身が日本のアニメ界でアニメーター養成に定評があったテレコム・アニメーションフィルム出身だからというのが大きいのでしょう。子どもの頃からちょっとだけ画を描く事が好きなだけで別に芸大を出たわけでもない自分などが、テレコムで大塚康生さんや友永和秀さんに教わって「人並みのアニメーター」になれたわけです。大塚さんや友永さんだけではありません。富沢信雄さんや田中敦子さん他まわりの先輩方にもいろいろ指導していただき今の自分があると思ってます。つまりテレコムのよいところは、毎年入ってくる新人たちを誰一人「君は天才だから!」的な特別扱いをしないトコだったんです。だからその経験上、自分が面倒をみる新人に対して最初に必ず言うのが

天才扱いはしないから!

て事で。ある入社試験や原画試験の類いを基本やらない。入社希望の方は基本スケッチブックやクロッキー帳・らくがきなどを持ってきてもらって、面接と称する雑談をして、社内に席が空いていれば採用します。たださすがに「これは昨日今日突貫で描いただけだなコリャ」な画だったり、雑談で「この人、アニメーターを馬鹿にしてるでしょ?」な発言や「アニメーターになる覚悟がないな」とこちらが判断したなどの余程の事がない限り「一度やってみる?」と来てもらう事にしてます。これはテレコムなどの大手のように人材を選べる立場にないというのも理由ですが、いちばんの理由は

たまたまその日のたった1回の試験でアニメーターの向き不向きが決められるわけがないっ!

と俺は常々思ってるからです。原画試験などもほぼ同じ理由でやりたくないわけ。特に大手の会社(スタジオ)で行われる原画試験は10数名の動画マンの中から2〜3名原画に上げるのは仕方ない事だし有効だと思うんですが、試験を受けた事がある自分からすると

新人たちが試験に合格した事をゴール地点にしてしまう!

のが怖いんです。中には「一流のアニメ会社で原画マンになったんです!」を免許皆伝にすぐフリーになって荒い原画をまき散らして、もちろん20代半ばで自宅作業に入り、他人の原画を見て刺激も受けぬまま自然と向上心も失った40代になった人を何人も見てきました、自分。だからウチ(ミルパンセ)の新人には

原画になるのなんて単なる通過点で、表現手段を与えられたに過ぎない!
本当に重要なのはその身につけた表現手段で何を描くかだ!

と、最初の動画をやる時点から言ってるんです。