COLUMN

第36回 アイドル誕生! 〜魔法の天使クリィミーマミ〜

 腹巻猫です。都内のマルイシティ渋谷で開催中の「『魔法の天使クリィミーマミ』30周年記念 高田明美原画展」を観てきました。繊細なタッチと色使いで描かれた原画の数々、眼福です。グッズ売り場の脇にはオープニング&エンディングの画コンテも展示してあるので注目。6月15日まで。


 放送30周年を迎えて『クリィミーマミ』のアニバーサリー企画が盛んだ。5月28日にはBlu-ray BOXが発売されたばかり。音楽商品では、なんといっても昨年(2013年)8月に発売された「クリィミーマミ サウンド・メモリアルBOX」が決定版だろう。アナログ盤で発売されていたアルバムを紙ジャケットで復刻、CD6枚+DVD1枚をパッケージした商品だ。
 『魔法の天使クリィミーマミ』は1983年7月から1年間にわたって放映されたスタジオぴえろ(現・ぴえろ)制作のTVアニメ。10歳の女の子・森沢優が魔法の力を手に入れて16歳の少女の姿に変身、芸能界にスカウトされてアイドル歌手・クリィミーマミとして活躍する物語。魔法少女ものに芸能界ものの要素を合体させた新しい感覚の作品だった。
 主題歌「デリケートに好きして」を歌い、優=マミ役の声優を務めたのは、当時15歳の太田貴子。もともと人気オーディション番組『スター誕生!』で徳間ジャパン(当時は徳間音工)からスカウトを受けた歌手の卵だった。本作への出演は、『アニメージュ』編集部へ挨拶に行ったのがきっかけだったと本人がインタビューで語っている。そして、本作の主題歌がそのまま太田貴子のデビュー曲になった。『魔法の天使クリィミーマミ』は太田貴子のシンデレラ・ストーリーでもあったわけだ。
 本作の肝はなんといっても歌である。放映中に3枚のシングル、2枚のアルバムがリリースされ、8曲の歌が作られた。
 発表順に紹介すると、

  1. デリケートに好きして(太田貴子)—オープニング
  2. パジャマのままで(太田貴子) —前期エンディング
  3. 優のクリィミーマミ(太田貴子)
  4. ラストキッスでGood luck!(島津冴子)
  5. BIN・KANルージュ(太田貴子)
  6. 囁いてジュテーム—Je t’aime—(太田貴子)
  7. LOVEさりげなく(太田貴子) —後期エンディング(#28〜)
  8. 美衝撃(ビューティフルショック)(太田貴子)

 1&2は主題歌シングルとして発売された。3&4はサウンドトラック・アルバムに収録。5&6はサントラ盤と同時発売の2ndシングルに収録。7&8は3rdシングルとして発売された。5〜8はドラマ編アルバム中でも使用されている。
 3、4を除く6曲はクリィミーマミがステージで披露する歌として劇中で使われた。マミの持ち歌でもあるのだ。
 3は優の視点の歌なのでマミの歌としては使えず、第17話でBGMとして流れたのみ。4は島津冴子が演じるアイドル歌手・綾瀬めぐみが歌う歌としてたびたび登場している。めぐみはマミがスカウトされた事務所のトップスターだったのだが、マミの登場でその座を脅かされるという展開(『マクロスF』を思い出しますな)。めぐみの歌が1曲しか作られていないのはもったいない。

 さて、本作の劇中音楽を担当したのは70年代から現代に至るまでアイドル歌謡の作曲家として第一線で活躍してきたヒットメーカー馬飼野康二である。アニメファンには『新・エースをねらえ!』『ベルサイユのばら』等のアニメ作品でもおなじみの作家だ。ところが、馬飼野康二は本作では1曲も歌を書いていない。
 本作のオープニングとエンディング、そして2曲の挿入歌——「優のクリィミーマミ」と「ラストキッスでGood luck!」——を作詞・作曲したのは古田喜昭。80年代アニメソングを語る上で忘れてはならないソングライターである。
 古田喜昭の名を意識したことがない人でも、曲を聴けば「これ知ってるよ!」という作品がたくさんあるはずだ。
 『ときめきトゥナイト』(1982)の主題歌「ときめきトゥナイト」「Super Love Lotion」(作詞・作曲)、『パーマン』(1983)の主題歌「きてよパーマン」「パーマンはそこにいる」(作曲)、『イタダキマン』(1983)の主題歌「いただきマンボ」(作曲)、『OKAWARI-BOY スターザンS』(1984)の主題歌「SHOW ME YOUR SPACE」「恋する気持ちはドーナツの中」(作詞・作曲)、『とんがり帽子のメモル』(1984)の主題歌「とんがり帽子のメモル」(作曲)、『魔法の妖精ペルシャ』(1984)の後期主題歌「おしゃれめさるな」(作曲)などなど。
 キャッチーな歌い出し、跳躍の多いメロディライン、思わず踊りだしたくなるようなリズム。一度聴くと忘れられない、そして、つい口ずさんでしまう親しみやすいメロディはアニメソングにぴったりだ。しかし、本人は特にポップスの作家をめざしたわけではなく、もともとマンガ家志望で画を描いていたのだという。ただ、音楽も好きで合唱やクラシック音楽を勉強し、ダンスにも熱中していた。ふしぎな経歴の持ち主なのだ。
 「デリケートに好きして」は冒頭から古田節全開の名曲だ。「そうよ女の子のハートは」からのロマンティックな展開もすばらしいし、サビの「デリケートに好きして」の繰り返しは、何度聴いても悶絶してしまうほどキュートだ。
 エンディング「パジャマのままで」はよく聴くと大人びた歌詞の歌。このメロディは馬飼野康二の手で「クリィミーサンバ」というBGMにアレンジされ、本編で効果的に使用されている(最終話のラストシーンにも流れた)。

 主題歌シングルは番組開始間もない1983年7月25日に発売された。発売当時、筆者も買っている。番組を数回観ただけで「これは買ってフルサイズ聴きたい!」と思わずにいられないほどインパクト抜群だったのだ。
 このシングル、アニメージュ・レーベルのシングル盤第7弾である(品番はANS-2007)。アニメージュ・レーベルは1982年12月に誕生したアニメ専門レーベル。『魔法の天使クリィミーマミ』は、『うる星やつら オンリー・ユー』(挿入歌「影ふみのワルツ」)、『宇宙戦艦ヤマト 完結編』、『超時空世紀オーガス』に続いてアニメージュ・レーベルがリリースしたタイトルだった。本作の人気がレーベルの追い風になり、1984年の『風の谷のナウシカ』の大ヒットにつながっていく。
 太田貴子=マミの2ndシングル「BIN・KANルージュ」は1983年9月25日の発売。デビュー曲に次ぐマミの新曲として第19話から登場する曲だ。作曲は山下久美子や斉藤由貴、南野陽子らに曲を提供している亀井登志夫。「デリケートに好きして」よりもアップテンポでロックっぽい曲調になった。可愛いだけのアイドルからの脱皮という路線なのだろう。劇中のマミの衣装もぐっと大人っぽくなっている。
 カップリングの「囁いてジュテーム」は、90年代に相川七瀬やZARDの曲で数々のヒットを放つ織田哲郎(アニメファンには『装甲騎兵ボトムズ』の主題歌歌手TETSUとしておなじみ)の作曲。「BIN・KANルージュ」と対照的な、しっとりしたバラードである。
 3rdシングル「LOVEさりげなく」は1984年1月25日の発売。松田聖子のヒット曲「青い珊瑚礁」や『キャッツ・アイ』の主題歌「CAT’S EYE」などを手がけた作詞・三浦徳子、作曲・小田裕一郎コンビの作だ。「CAT’S EYE」同様にダンサンブルな作品に仕上がっている。『キャッツ・アイ』の放映開始は『クリィミーマミ』と同じ1983年7月だから、同時期のヒット曲の作家を目ざとく起用した形である。
 カップリングの「美衝撃(ビューティフルショック)」は再び織田哲郎の作。こちらはサビの「Beautiful Shock!」が化粧品のCMソングにぴったりという印象のノリのよい曲。
 このあと、勢いに乗って太田貴子=マミの曲が次々リリースされて劇中でも流れるようになる……かと思いきや、そうはならないのである。

 『魔法の天使クリィミーマミ』は1984年6月に最終回を迎える。音楽商品としては3月25日にドラマ編アルバムが出ただけで、マミの新しい歌が作られることはなかった。歌のアルバムも作られていない(太田貴子の1stアルバムが出るのは1984年8月になってから)。
 アイドル歌手が主人公の作品だから、マミのソロ・アルバムを作ったらヒットしただろうに……と思う。でも、当時のアニメ音楽業界は今とは少し違っていて、主題歌とサウンドトラックとドラマ編アルバムに力を入れていた。キャラソンなんて言葉もなかった時代だったのだ。
 『魔法の天使クリィミーマミ』の新しい歌が作られるのは、TVシリーズ終了後、OVAやミュージッククリップがリリースされるようになってからのことになる。ファンの熱意が後押しした新作だった。「クリィミーマミ サウンド・メモリアルBOX」には、その軌跡がまるごと、タイムカプセルのように再現されている。『クリィミーマミ』の大ファンというほどでもない筆者だけど、紙ジャケットを手にするとあの時代の空気を思い出す。そして、高田明美の絵がやっぱりステキなのだな。

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魔法の天使 クリィミーマミ Blu-ray メモリアルボックス

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