COLUMN

第35回 フレンチポップでラブコメを 〜だぁ!だぁ!だぁ!〜

 腹巻猫です。『マジンガーZ』「宇宙刑事ギャバン」などの音楽で知られる渡辺宙明先生の50年前の作品「忍者部隊月光」が初サントラ・アルバム化! 5月14日に発売されました。渡辺宙明ヒーロー・アクション・サウンドの原点、ぜひお聴きください。
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 2005年に放映されたTVアニメ『蟲師』の続編『蟲師[続章]』がこの4月から放映されている。漆原友紀のマンガを原作にした民俗テイストのファンタジー。音楽の増田俊郎は、旧作で毎回エンディング曲をエピソードに合わせて書き下ろすという意欲的な試みをしていたが、今回も同じことをやっているのに感動。サントラの発売が楽しみだ。
 増田俊郎は1959年生まれ。幼い頃に聴いたアフリカ民族音楽によって音楽に興味を憶えたという。日本大学在学中よりキーボード・プレイヤーとして活動。卒業後プロの音楽家となってからは、プレイヤーとして、また音楽監督として、一世風靡セピア、中山美穂、島田歌穂、柳葉敏郎、小椋桂、大地真央ら、多くのアーティストのコンサート・ツアーやステージ・サポート、レコーディングに参加。そのかたわら、バラエティ番組「ダウンタウンのごっつええ感じ」などの音楽を担当して、ユニークな音楽が注目された。アニメ作品の代表作といえば、『はれときどきぶた』(1997)、『十兵衛ちゃん』(1999/2004)、そして今回取り上げる『だぁ!だぁ!だぁ!』(2000)などだろう。『蟲師』のイメージとは対照的に、実はコメディの音楽を書かせると抜群にうまい人なのである。
 コメディの音楽は難しい。やりすぎるとわざとらしく、騒々しいだけの音楽になってしまう。それを品よく、絶妙のバランスで仕上げられるセンスと力量を持った作家は稀有だ。増田俊郎の音楽を聴いて「いいなあ」と思うのは、その品のよさとユーモアのさじ加減の絶妙さ、でしゃばらないけれど音楽がしっかりとテーマ性を持っていることである。その特徴がよく出た作品が『だぁ!だぁ!だぁ!』だ。

 『だぁ!だぁ!だぁ!』は川村美香のマンガを原作に2000年3月28日から2002年3月25日までNHK BS2で全78話が放映されたTVアニメ作品。監督は桜井弘明、アニメーション制作はJ.C.STAFFが担当した。
 両親の都合で突然同居することになった中学2年生の少女・光月未夢(みゆ)と同い年の少年・西遠寺彷徨(かなた)。そこに宇宙から赤ん坊のルゥとシッターペットのワンニャーがやってきたことで、2人は複雑な秘密を抱えることになる……という物語。ラブコメ+SFという設定のもと、未夢と彷徨とルゥとワンニャー、そしてクリス、ももか、星矢、みかんなどの個性豊かなキャラクターが巻き起こす騒動が楽しい作品だ。
 増田俊郎の音楽は、『はれときどきぶた』ほどコメディに寄らず、日常感覚とロマンスの香りがブレンドされた軽妙な作品に仕上がっている。増田とは大学時代のバンド仲間でもあった桜井監督は、音楽について「フレンチポップス系」とのリクエストを出してきたという。
 サウンドトラック・アルバムは2000年11月に第1弾が、2001年6月に第2弾がビクターエンタテインメントから発売された。
 サントラ第1弾の収録曲は以下のとおり。

1.ハートのつばさ(中島礼香)
2.サブタイトル。
3.だぁ!だぁ!だぁ!のテーマ。
4.故郷の星☆宇宙の彼方☆オット星。
5.西園寺さん家って…お寺?!
6.毎度、お騒がせいたしま〜す。
7.可愛くたって宇宙人…超能力付き。
8.シッター・ペットのワンニャーです!
9.未夢は転校生。
10.アイキャッチA
11.だぁ・だぁ・カーニバル。
12.彷徨は人気者
13.花小町クリスティーヌ、登場。
14.花小町クリスティーヌの妄想!?
15.花小町クリスティーヌが暴走!!
16.アイキャッチB
17.あたち、ももか。
18.ルゥのマーチ。
19.何か、イヤ〜な予感。
20.と、思ったらやっぱりピ〜ンチ!!
21.さあ、大変!
22.悲しいこともあるだろさ。
23.ちょっぴりセンチに…[ハート]
24.やんちゃなルゥ。
25.スヤスヤ…。
《Bonus Track》
26.トリ(?)のレコード。
27.ど〜すりゃこ〜すりゃスリランカ。(カラオケ)
28.さわやか〜な気分で。
29.ハートのつばさ〈未夢ヴァージョン〉(光月未夢/CV:名塚佳織)

 曲タイトルの最後に「。」がついているのが面白い。「照れくさいから、あまり真剣に聴かないでね」と小声で言っているような印象だ。それが本作の雰囲気によく合っている。
 3曲目に置かれた「だぁ!だぁ!だぁ!のテーマ。」は本作のメインテーマ。軽快なイントロに導かれて、バイオリンによるさわやかなテーマが続く。メロディを引き継ぐアコーディオンがフレンチ風味。中間部のピアノのアドリブがおしゃれで「パリのエスプリ」という感じ。ロマンティックだけどほのかにユーモラス。ハリウッド・ロマンティックコメディのような完成度の高い曲だ。
 4曲目「故郷の星☆宇宙の彼方☆オット星。」は、宇宙からやってきた赤ん坊ルゥの故郷の星のテーマ。本作のSF作品としての側面を代表するサウンドだ。イントロはシンセのキラキラとパッド音。続いて弦楽器が奏でるやさしく懐かしいメロディが登場する。イメージは映画「E.T.」だろうか。
 5曲目「西園寺さん家って…お寺?!」は、未夢が住むことになった彷徨の実家・西園寺のテーマ。タイトルどおり、お寺なのだ。木魚の音のようなパーカッションが楽しい。ことさらにコミカルなメロディやサウンドを使っているわけではないのに、聴いていると「くすり」と笑いたくなるようなユーモアがある。こういう曲がほんとうに難しいのだ。増田俊郎のセンスのよさとうまさがよく出た曲である。
 7曲目「可愛くたって宇宙人…超能力付き。」は赤ん坊ルゥのテーマ。キラキラした導入部から一瞬のブレイクをはさんでピアノの落ち着いたメロディが続く。曲タイトルの印象とはうらはらに、ロマンティックでやさしい曲だ。増田俊郎は本作の音楽を作るとき「ルゥを中心に考えた」という。本作はコメディのようでいて、少女マンガらしいロマンスの要素がしっかり入っている。ルゥにとって、未夢と彷徨はママとパパ。この曲は家族の中心としてのルゥのテーマである。
 コミカル曲では8曲目「シッター・ペットのワンニャーです!」、ラテン風味の11曲目「だぁ・だぁ・カーニバル。」なども秀逸。
 13曲目から15曲目までの3曲は彷徨に片思いするエキセントリックな少女・花小町クリスティーヌ(クリス)のテーマ。ふだんはお嬢様なのに恋心が暴走すると人格が変貌するキャラクターで、その変化が「登場。」「妄想!?」「暴走!!」の3曲でよく表現されている。3曲続けて聴くと面白さがわかるという、3段落ちのような曲だ。ライナーノーツによれば、「発注もないのに3曲も作ってしまった」とか。中学生時代は落語に傾倒していたという増田は、大真面目な中にとぼけた味わいを出すのが実にうまい。
 17曲目「あたち、ももか。」は「ルゥの彼女」を自称する3歳の女の子・ももかのテーマ。これもコミカルに傾きすぎず、女の子らしいかわいさとはじけた明るさを持ったしゃれた曲になっている。キャラクターへの愛情を感じる曲である。
 サントラ終盤は、トラブル〜大騒ぎ〜大団円、と物語の流れを意識した構成。ここにきて、「悲しいこともあるだろさ。」「ちょっぴりセンチに…[ハート]」としっとりした曲が続いて、しっかりアルバムを締めくくっている。いい構成だ。
 24曲目「やんちゃなルゥ。」は劇中たびたび流れて印象深いルゥのテーマ。ルゥのテーマというより、未夢、彷徨、ルゥ、ワンニャーを含めた「家族のテーマ」といってもよい曲だ。明るくポップなバイオリンのテーマが流れたあと、中間部でチェロのドリーミーな旋律が挿入される。ここが実にいい。「大騒ぎして疲れたけど、それも幸せだよね」みたいな幸福感が感じられるのだ。
 25曲目はオルゴールの音色が奏でる「スヤスヤ…。」。ルゥの寝息とともに、アルバムも終わる……。
 と思いきや、ボーナストラックが4曲も入って、最後はドタバタと元気にクロージングを迎えるのが『だぁ!だぁ!だぁ!』らしくてグッド。
 ラストは未夢役の名塚佳織が歌う本作のオープニング主題歌。主役の名塚佳織と三瓶由布子(彷徨役)は、本作出演時、役柄と同じ中学生だったというから驚きだ。そのフレッシュな印象を壊さない音楽の軽妙洒脱さは、今聴いても幸せな気持ちになる。ほんと、うまいよなあ〜。『蟲師』の音楽が気に入ったという人にもぜひお奨めしたい、増田俊郎の才気あふれる1作である。

だぁ!だぁ!だぁ! オリジナル・サウンドトラック

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だぁ!だぁ!だぁ! オリジナル・サウンドトラック2

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