COLUMN

第34回 あの娘はさくら色 ~ カードキャプターさくら ~

 腹巻猫です。5月3日に東京・中野で開催される資料性博覧会07に参加します。また、5月5日には阿佐ヶ谷ロフトAで開催される「渡辺宙明トークライブ5」に出演予定。ゴールデンウィーク中ですが、お時間ある方はぜひおいでください。詳細は下記を。
・資料性博覧会公式サイト
 http://www.mandarake.co.jp/information/event/siryosei_expo/
・阿佐ヶ谷ロフト イベントページ
 http://www.loft-prj.co.jp/schedule/lofta/23008


 キッズステーションで再放送されていた『カードキャプターさくら』が4月25日で全話終了。あらためて作画と音楽のクオリティの高さに感服。お腹いっぱいです。
 TVアニメ『カードキャプターさくら』はCLAMPの同名漫画を原作に、1998年から2000年までNHK BS2で放映された作品。アニメーション制作はマッドハウスが手がけている。
 小学4年生の木之本桜(さくら)が魔法のカード、クロウ・カードを捕獲する「カードキャプター」となって活躍する物語。いわゆる「魔法少女もの」だが、伝統的な魔法少女アニメとは少し違う。魔力を持つクロウ・カードが引き起こす事件を、さくらがカードを封印することで解決する、というのが毎回の基本フォーマット。『美少女戦士セーラームーン』(1992)に始まる「戦闘美少女もの」のパターンを取り入れた作品だ。

 しかし、なんといっても本作の最大の魅力は主人公・さくらの可愛らしさだろう。ほぼ毎回のように新しいコスチュームが披露されるのも見どころだ。さくらのバトルコスチュームは魔法の力による「変身」ではなく、さくらの親友・知世が自らデザインして制作しているのである。クロウ・カードとの対決シーンもこのコスチュームのおかげでファッショナブルに映る。
 知世の趣味は、ビデオカメラでさくらの活躍を記録すること。知世が持つカメラは視聴者の目でもある。ファンは知世といっしょになって、「はにゃ~」「ほえ?」といったさくらの豊かな表情を楽しみ、可愛いファッションに身を包んださくらを応援する。筆者が思うに、『カードキャプターさくら』は魔法少女もののフォーマットをまとったさくらのアイドル・ムービーなのである。

 音楽を担当したのは根岸貴幸。1996年に『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』『ルパン三世 トワイライト☆ジェミニの秘密』の音楽を大野雄二に代わって担当。本作のあと、『東京ミュウミュウ』(2002)、『爆丸 バトルブローラーズ』(2007)、『カードファイト!! ヴァンガード』(2011)などの音楽を担当している。田中公平が作曲を手がけた『勇者王ガオガイガー』のオープニング、エンディング、『ワンピース』の主題歌「ウィーアー!」「ウィーゴー!」の編曲者、と言えばその音作りのうまさを納得していただけるだろう。近年では『ガイストクラッシャー』(2013)の音楽を田中公平と連名で担当している。
 『カードキャプターさくら』の音楽は根岸貴幸のサウンドメイカーとしての才能が注ぎ込まれた代表作と言ってよい。映像に負けないくらい、音楽も品よく華麗に仕上がっている。
 サウンドトラックはTVシリーズで4枚発売された。1枚目の収録曲は以下のとおり。

  1. Catch You Catch Me(グミ)
  2. さわやかな朝
  3. 幸せの桜並木
  4. 地下室
  5. ケロちゃんのテーマ
  6. 誕生!カードキャプター
  7. 楽しいひととき
  8. やすらぎの日
  9. ヒトリジメ(グミ)
  10. ほえ?
  11. あこがれ
  12. 元気いっぱい
  13. 小狼のテーマ
  14. あなたといれば(木之本桜:丹下桜、大道寺知世:岩男潤子)
  15. お母さんのおもかげ
  16. クロウカード
  17. クロウカードを逃すな!
  18. せつない気持ち
  19. 夜の歌(大道寺知世:岩男潤子)
  20. さくらのテーマ(I)
  21. パニック
  22. 対決!!
  23. さくらのテーマ(II)
  24. 希望の予感
  25. しあわせの魔法(木之本桜:丹下桜)

 曲順は、カードキャプター誕生~日常~クロウカードの気配~心情~クロウカードとの対決~封印~大団円、という流れ。大きなうねりとメリハリがあるツボを押さえた構成だ。

 オープニング主題歌に続くトラック2からトラック7までが導入部。第1話の物語にそった構成になっている。実際、第1話の音楽はフィルムを見て作曲されたのだそうだ。
 「夢」は第1話冒頭、さくらの夢の場面に流れた曲。続いて目覚めたさくらが登校準備をする場面に流れる「さわやかな朝」。「幸せの桜並木」はさくらが桜並木の下であこがれの人・雪兎に出逢う場面の曲。さくらが自宅の地下室でクロウ・カードの本を見つける場面の「地下室」に続き、封印の獣ケロべロスことケロちゃんのテーマが登場。「誕生!カードキャプター」でいよいよ、さくらがカードキャプターとなる。

 聴きどころは、やはり魔法少女ものの華である魔法発動シーンの音楽だ。
 トラック21「さくらのテーマ(I)」とトラック24「さくらのテーマ(II)」は、さくらの「レリース!」から「汝のあるべき姿に戻れ!」までの定番シーンに流れた音楽。本作の最大の聴きどころといってよい曲だ。
 「さくらのテーマ(I)」はファンファーレ風のイントロから始まる活動的な曲。途中ホルンの緊迫感のあるフレーズが挿入される。金管の響きが実に効果的。
 「さくらのテーマ(II)」はストリングスが主旋律を奏でる流麗な曲。さくら優勢~カード封印の場面でよく使われていた。
 この2曲が「さくらのテーマ」と名づけられているのが面白い。なぜ「魔法のテーマ」ではないのだろう。主眼はあくまでさくら。「魔法のテーマではなく、魔法を使っているさくらちゃんのための曲なんですわ」と知世なら言うかもしれない。魔法もさくらの可愛さを引き立てるギミックのひとつなのだ。

 いっぽう、さくらの日常や心情を描写する音楽も魅力的だ。
 トラック8「楽しいひととき」はちょっと「はにゃ~」とした気分にぴったりのほんわかした曲。日常から10cm浮いたような雰囲気にぴったりくる。
 トラック9「やすらぎの日」はシンセのポップなフレーズから始まる日常曲。ギター、フルートが浮き立つ気分を表現して、聴いているこちらもうきうきしてくる。何度もリピートしたくなる曲だ。
 トラック12「あこがれ」、トラック13「元気いっぱい」はシンセの音が心地よい曲。本作のシンセの音使いは絶妙で、根岸貴幸の音作りのセンスのよさが発揮されている。
 筆者のお気に入りはトラック19の「せつない気持ち」。「せつない」というタイトルだが過度に感情が入ることなく、サティの音楽のようなふわっとした空気感がただよっているのが実にいい。

 トラック20の「夜の歌」は知世(CV:岩男潤子)が歌う挿入歌。第5話で初登場し、第23話「さくらと知世のすてきな歌」では物語の中で重要な役割を果たした。これも根岸貴幸の作品だ。

 締めくくりは、数々のエピソードのフィナーレを飾った大団円の曲「希望の予感」。タイトルどおり幸せな予感に満ちた無敵のエンディング曲だ。

 さくらのアイドル・ムービーたる本作(と勝手に決めてますが)、音楽も物語やシチュエーションよりもさくらの魅力に奉仕する音楽になっている気がする。華があり、過度に感傷的にも下世話にもならない品のよさを持った、パステルカラーで描かれたような音楽。音に色があるとすれば、イメージカラーはやはり、さくら色だろう。春のように心が高揚する音楽だ。

 ところで、ここまで紹介した曲以外に、本作を何度か見た人なら必ず耳に残るに違いない曲がある。それは、サブタイトルとアイキャッチの音楽。わずか数秒のサイズに変化に富んだ展開と凝ったアレンジが詰め込まれている。「TVアニメ サブタイトル・ベスト」「アイキャッチ・ベスト」なる企画があれば、ベスト3に入るであろう名曲である。サントラ1枚目には収録されなかったが、のちに発売された2枚目のボーナストラックとして、予告音楽、「ケロちゃんにおまかせ」コーナーのジングル曲などとともに収録された。わかってるなぁ。

カードキャプターさくら オリジナル・サウンドトラック

VICL-60263/3045円/ビクターエンタテインメント
Amazon

カードキャプターさくら オリジナル・サウンドトラック2

VICL-60342/3045円/ビクターエンタテインメント
Amazon

カードキャプターさくら オリジナル・サウンドトラック3

※第2期の主題歌と追加音楽を収録。
VICL-60385/2625円/ビクターエンタテインメント
Amazon

カードキャプターさくら オリジナル・サウンドトラック4

※第3期の主題歌と追加音楽を収録。
VICL-60544/3045円/ビクターエンタテインメント
Amazon