COLUMN

第70回 To All The Corners of the World

●2014年2月28日(金曜日)

 『マイマイ新子と千年の魔法』英語圏版のクラウドファンディングを行っているアンドリューという人は、「お金を出してもらうこと」がイコール「出してくれた方の幸福」であるように、ということにものすごく積極的で、いろいろな特典の案だとかサービスを考え出してくる。そういうのだったら、こちらも『マイマイ新子』のレイトショー上映実現以降に盛んにやってきたことなので、よくわかる感じがする。なので、できることなら協力しますから、といってあったのだけれど、
 「じゃあ、インターネット上のテキスト・インタビューに出てもらえないか?」
 というオファーがあった。
 要するに、チャットみたいなことで、テキストで寄せられた質問に対してリアルタイムにテキストで答えてゆく、ということなのだが、『マイマイ新子』の舞台挨拶とかティーチインだとかをもう何百回かこなしてきた経験もあるので、お安い御用、ということになった。投げてこられる質問が英語で、答えも英語で返さなければならないのだが、こちらにも英語を使いこなす渡邊君というスタッフがいるので、心強くお引き受けできる。
 そのナベ君が先方と連絡をとって、
 「当日は朝9時からとちょっと早いのですが、よろしくお願いします」
 という話になった。よく考えたら、言葉の問題は簡単に乗り越えられても、地理的なことはどうしようもないわけで、アメリカやイギリスの時間に合わせる必要があるのだった。でも、実はいつも9時半にはスタジオに入ってるので、まあちょっとだけ急げばよいくらいの感じ。
 ところで、今回のことが広報されているキックスターターのページを見たら、「27th February at 6pm EST, 11pm GMT and 8am Tokyo!」とさらっと書かれていた。ええっと、ESTはアメリカの東部標準時で、GMTは地元に……じゃなくてグリニッジで、ということは東京は日付変更線越えてるから、28日の午前8時で……??? 8時?
 朝8時に仕事場に着こうと思ったら、いつもより道路が混んでる時間に車で来なけりゃならないので、6時半より前に家を出なくちゃならないわけで。
 「午前8時って書いてあるよ?」
 「あれ? そうでしたか。確認し直します」
 何か連絡のうまくいってないところがあったらしい。
 ここにすでに質問と解答の場所ができてます。とURLを教えてもらってのぞいてみたら、トップに堂々と
 「I am Sunao Katabuchi, director & writer of Black Lagoon & Mai Mai Miracle!」
 というタイトルが掲げてあった。
 どういうわけか日本では『BLACK LAGOON』を作ったことと『マイマイ新子』を作ったことを区別して扱われることが多くって、両タイトルの合同イベントを一度だけ阿佐ヶ谷ロフトでやったことがあるだけくらい。欧米でも結構名の知れている『BLACK LAGOON』をまず前に出してくるあたりが、アンドリューの抜かりのなさだ。と、思っていたら、『エースコンバット04』のファンというお客さんが質問したがっている、という話も伝わってくる。まあ世界中で264万本出たゲームだし、だけど、そこに自分が関わってることを知った上となるとそれなりにマニアックなんだろうなあ。

 当日は、『BLACK LAGOON』についての質問(続編はあるのでしょうか? バイオレンス描写に規制はかからなかったんですか?)からはじまって、「日本のアニメ業界で働きたいのですがどうすれば?」「シナリオライターになるために大切なことは?」みたいな問いかけが並んで、なんだか日本で受け答えしてるのと全く同じような感じになってきた。
 「文化」としてのアニメはこういうところまで均質化をもたらすものであるらしい。「何国人」だとかそういうことはもはや人を計るモノサシにはならない。
 『マイマイ新子』の中で描かれている世界の背景解説もしなくちゃならないかな、とそのへんは多少記憶を呼び覚まして予習しておいたのだけど、そういう質問は来ない。まだこれから観る人たちばかりなのだからそれはそうだ。

 と思っていたら、
 「2年前にアナウンスのあった『To All The Corners of the World』の仕事は今どうなってるんですか?」
 という質問がきた。
 ナベ君は、
 「この世界の片隅に、というこの『に』の意味を考えたら、『At The Corners Of This World』みたいなはずですよね、本来」
 「うん、まあ。ああ、だったらeveryも入れといて」
 「『At The Every Corners Of This World』」
 と、自分もかねてより同じように思ってたのだけれど、『マイマイ新子と千年の魔法』が『Mai Mai Miracle』であるように、『To All The Corners of the World』も原作の英語タイトルとしてすでに確立している。
 それにしても、『この世界の片隅に』を作っているのを海外でもちゃんと認識してくれている人がすでにあるのがわかってよかった。

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