COLUMN

第356回 才能と手柄と伝説

謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影(中野晴行・著/筑摩書房・刊)

 これは、マンガの神様・手塚治虫(以下すべて敬称略で!)単行本デビュー作としてあまりに有名な「新宝島」にはもう1人共同著者がいて、それが酒井七馬! という内容の本です。「新宝島」は手塚治虫物語的な才能を讃える偉人的ドラマや、俺の大好きな「まんが道」(藤子不二雄[A]・著)など、他多数で語り継がれてる「映画的手法云々」や「紙に描かれた映画云々」と様々に形容される戦後マンガ最大の名著です。たしかにこの「新宝島」、あらゆるマンガ界の巨匠からデザイナーや落語家まで相当な影響を与えた作品だけあって、今読んでも動きのあるキャラ、奥行きのあるアングル、軽快なコマ運び— —これは戦後リアルタイムで読んだら誰でも夢中になるでしょう。そして誰もが認めたでしょう、

手塚治虫は天才だ!

と。でもこれも「俺ら世代の勝手な憶測」かも知れなくて、その後の手塚伝説からの逆算で「『新宝島』は天才・手塚治虫だからこそなし得た作品に違いない!」と思ってるだけかも? 前回も触れたように、アニメにもこーゆー「手柄の歪曲」はよくある話。少なくともこの「新宝島」には「原作/構成・酒井七馬、作画・手塚治虫」と表記があるのに、その手柄はすべて手塚治虫に集中してるのには理由があるハズ!

そもそも自分は「まんが道(あすなろ編)で」激河大介が持ってた「新宝島」の表紙にあった 「酒井七馬」の名は凄く気になってましたから!

で、この本、「謎のマンガ家・酒井七馬伝」なんです。発売当初(2007年)から読みたかったんですが、近くの本屋に売ってなかったので他の本に目移りしてしまい、結局7年経った最近、ア○ゾンで買いました。そして読破。なるほど、「新宝島」における手柄配分が手塚寄りになってるのは、戦後活躍の場を東京に移し、単行本よりも雑誌連載の方をメインに大人気マンガ家になっていった手塚の方が、後に「つまり「新宝島」はこういう経緯で」と公で発言する機会が多く、さらにまわりの手塚信者(の後輩マンガ家)らの「手塚先生は神様だ!」発言が輪をかけ、その情報を自分らの世代が信じきったからだと思います。それに対し酒井七馬は、終生大阪から移らず、単行本から新聞連載、はたまた紙芝居へと「新宝島」に関しては黙して語らず——しまいには餓死説まで出てしまう始末。つまり、自分、板垣個人の見解は

実際、画の大半を描いたのは手塚治虫であるのは確かで、その評価は間違ってないと思うけど、手塚発言ほど酒井七馬は何もしてないわけではなく、物語の構成や画の部分修、口絵・表紙といろいろ関わってる事はもっと評価されるべきでは!?

な感じでしょうか。ちなみに手塚治虫は俺がいちばん尊敬するクリエイターです、たぶん。