SPECIAL

西村義明プロデューサー インタビュー
第3回 コンテ作業の長い旅

── 田辺さんが劇的にスピードアップした瞬間は、どこかにあったんですか。

西村 いや、最後まで劇的にはならなかったです。

── そうなんですか!? 本編作業でも?

西村 最後の半年ぐらいですね、比較的止まらずに描いたのは。

── それ以前は、やっぱり毎日マイペースで作業されてたわけですか。

西村 いや、マイペースではないんですけどね。ただ、追いつかないんですよ。1個1個、立ち止まってしまうので。

── 田辺さんが「このカットの画はこれでいいのか」みたいなことを自問自答しながら進むから遅くなる?

西村 そうですね。自分がコンテを描くときも、それをやるんです。さらにまたレイアウトチェックで1回1回止まったり、レイアウトで通したのにラフ原チェックで止まり、原画チェックで止まり、とか。キツかったですねえ……。設計はもう終えてるんだから、もういいじゃないって思うんだけど、何か違うんでしょうね。

── コンテの段階でも、かなり完成した作品に近い画面にはなってますよね。

西村 そうそう。ラフ原みたいに割ってるところもかなりある。普通のコンテよりも全然割ってるんですよね。

── それでもレイアウトや原画で直しを入れる。そのために、田辺さんのチェック待ち状態になるわけですね。

西村 そうなんですよね。田辺さんがよく言ってましたけど、巧い原画さんはミリ単位で線を選んでるから、QAR(クイックアクションレコーダー)で撮るときもタップ穴がズレたりしないように気をつけてくださいと。でも、田辺さんはミリ単位じゃないんです。0.1ミリ単位なんですよ。この線のこの感じが違うだけで、画の印象が全然違うというのが分かってる。

── ラフな画でも。

西村 全然違いますね。線の濃淡、線の出と入り。この線は太く、この線は細くとか、そういうのは理屈を超えた「センス」ですからね。そのセンスを全面的に活かそうという作品だから、まあ、最初から大変なことになる宿命を負ってたんでしょうね。僕は、その大変さを全然分かってなかった。

── ……おつかれさまでした(笑)。

西村 いやいや、大変だったのは僕だけじゃないですから。

── コンテも、田辺さんと高畑さんの2人で作られていったんですよね。

西村 まあ、そういうふうに言うと簡単に聞こえますけどね。高畑さんとしては、コンテの前にイメージボードを描いてほしかったんですよ。それで、脚本作業を始めたとき、田辺さんにも参加してもらったんです。イメージが湧かないから描けないと言うのなら、その場で話を聞いてイメージを得てもらうしかない。それで、高畑さんの家でずうっと脚本会議をやっていたんですけど、それでも田辺さんは描いてくれなかった。

── 監督のご自宅でやっていたんですか。

西村 ええ。ジブリが準備室を設けさせてくれなくて……。みんな、この企画ができるとは思ってませんでしたから。

── そのときの『かぐや姫』スタッフは?

西村 僕と、高畑さんと、田辺さんです。

── 3人だけ?

西村 そうですよ。それで、脚本会議をやってもイメージボードができないし、キャラクターもできない。田辺さん、匿名の髪の長い女性とかは描いてくるんですけど、かぐや姫のイメージとは程遠いわけですよ。それでも、イメージボードらしきものを8枚ぐらい描いてきたのかな。いずれも抽象的なものでしたけどね。それを高畑さんに見せたら、また激怒ですよ。「なんですか、これは」「いや、試しにイメージボードを描いてみたんですけど」「この四角はなんですか」「いや、フレームのつもりなんですけど」「フレーム? フレームっていうことは、これが完成画面のつもりで描いたってことですか」「そのつもりです」って。

── ハラハラしますね……。

西村 「あなたねえ……これで映画ができると思ってるんですか!」って、そこからバーッと怒り出すんですよ(笑)。「大体ね、画が少なすぎるよ! もっと描いてきてよ!」って。

── そういう言い方をするんですか。

西村 うん。それで田辺さん、また描かなくなったんですよね(笑)。高畑さんに怒られてから、イメージボードは一切描きませんでした。キャラクタースケッチみたいなものは、すーっと描くんですけどね。だけど、世界が広がっていかないじゃないですか。それでずっと高畑さんは田辺さんのことを怒り続けてるしね。どっちもどっちですよ、僕からすりゃあ。

一同 (爆笑)。

── このお話はオフレコですか?

西村 いやいや、載せてもらってかまわないですよ。本当のことですから。怒るから萎縮して描けなくなるし、描きゃいいのに描かないから怒られるし。そういう負のスパイラルですよね。2人が2人とも追い込み合って、僕はそこで傍観するしかない。「高畑さん、田辺さんはこう思ってますから」って、間を取り持ったりしてね。だけど、さすがに限界にきたので、これはもう2人をいちど引き離さなきゃいかんと思ったんです。田辺さんは具体の人だから、シナリオの行間からイメージするとか、キャラクターを具現化するといったことを得意としない。これ以上、付き合わせても意味がない。だから、脚本ができたところで、もうコンテにしていきましょうと。高畑さんには2ヶ月ばかり休んでもらって、田辺さんにコンテを1人でやらせることにしたんです。そうすればお話に沿って、こういう爺さんかな? こういう婆さんかな? と具体的に考えざるを得ない。2人を引き離す意味もあり、田辺さんの作業を前進させる意味もあった。

── なるほど。その2ヶ月で、どこまで進んだんですか。

西村 全部で17シーンぐらいあるんですけど、シーン1と2のコンテを田辺さんが描いて持ってきたんです。で、高畑さんに見せたら、やっぱり激怒ですよね。「なんですか、これは。全然コンテになってないよ!」と。で、僕が「コンテになってないですか。じゃあ、やっぱり高畑さんが一緒にやるしかないですね」と言って、そこでやっと2人の共同コンテ作業が始まるんですよ。イメージボードができないから、無理やりコンテに進まざるをえなかった(笑)。それが後々、いろんな問題をはらむんですけどね。

── うんうん。

西村 コンテを描きながらキャラクターを決め、設定を決め、世界を決めていく。もう1個1個、立ち止まっては決めていくわけですよ。だから、1年半でコンテが30分までしか進まなかった。2時間だったら何年かかりますか?

── 3年で1時間、ですよね。

西村 そのとき覚悟しましたよ。全部で6年かあ……と。そのペースでしかできなかったですね。

── コンテの段取りとしては、例えば高畑さんがラフを描いて田辺さんに渡すとか?

西村 いやいや、そういうレベルじゃないです。例えば、高畑さんが「あの……竹ってなんで光るんでしょうかね」って言い始めるんです。

── え?

西村 で、僕が「いや、だって『もと光る竹なむ一筋ありける』って原作にあるじゃないですか」と言うと、高畑さんが「竹の光源ってどこにあるんですか」と。「光源は、姫じゃないんですか」「いや、かぐや姫が光源だとしたら、竹を光が貫通するんですか」って。高畑さん、自分で脚本を書いてるのに聞くんです。

── (笑)。

西村 「光、貫通しないですか」と言っても、高畑さんが「いや、貫通しません。この竹はまず孟宗竹じゃありません。真竹です。真竹であっても、皮がこんなに分厚いんですよ。だから、姫が光源だったら光は貫通しません。つまり竹は光りません」。以上。ここでコンテが止まるわけです。

── それはコンテ打ち合わせ中に言い出すんですか。

西村 言い出して、考え始めるんですよね。どうやって竹を光らせるか。仮に、姫を光源として光らせたとしても、節と節の間しか光らないはずだとかね。こっちとしては「アニメなんだから、光ればいいじゃん」って思うんですけど(笑)。でも、悩み続ける。2ヶ月ぐらい考えてから、言ってくるんですよ。「分かりました。光源を外に持っていって、外から光らせましょう」って。どういうことですか? と聞くと、筍の先端に姫がいて、そこからボワッと光が発していれば、そばにある竹の根本が光って見えるはずだと。「もと光る竹なむ」になるはずだ、と。

── ああ。

西村 ホントに「ああ」としか言いようがないですよ(笑)。そんな調子で、1個1個検証しながら描いていく。光る筍がふわっと開いて、姫の姿が現れるにはどうすればいいかということに関しても、そのやり方を2ヶ月間、考え続けるんです。で、コンテの中にそのエスキースを描き込む。

── その間、他のことは考えないんですか。

西村 いや、他のことばっかり考えてるんですよ。田辺さんも高畑さんの横で、ああでもないこうでもないって雑談しながら描いてるんですけど、描き終わると高畑さんが「ああ、違うでしょう」と言いながら、また考え直して描き直す(笑)。そんなことばっかです。

── 仕上がったコンテは、カット割りもきちんとしているし、映画的な連続性ができあがっているじゃないですか。そういうつなぎも、逐一ディスカッションして決めているわけですか。

西村 いや、カット割りやコンティニュイティーに関しては、高畑さんが全部決めてますね。

── あ、なるほど。

西村 田辺さんが単独で描いたコンテは、やっぱりコンティニュイティーに関しては満足いくものではなかった。アニメーターだからかもしれませんけど、キャラクターが全部フルショットだったんですよ。大雑把に言うと、舞台があって、そこで丸チョンのキャラクターがフルショットで動いてるという画が多かった。まあ、芝居を見せたかったんでしょうね。それだと商業アニメとしては成立しませんから。

── 田辺さんが最初に描いてこられたものは、そうなっていた?

西村 うん。高畑さんはもっと映画的に、ここは寄ろうとか、引こうとか、丸チョンで描いて田辺さんに指示するわけです。

── 高畑さんと田辺さんは、コンテ作業中にどんなディスカッションをするんですか。

西村 例えば翁の家ってどんな家だろうと言って、民家の写真集なんかを2人で見ながら「こうですかねえ」とか言いながら作っていくんです。田辺さんは民家とかには詳しいし、写真集もいっぱい持っている。絵巻物も見てますしね。だから、その点では高畑さんと話が合うんです。でも、話自体が長いから、翁の家ができるのに3ヶ月ぐらいかかるんですよ。

── それは、1年半で30分の世界でしょうねえ……。

西村 でも、無理やりコンテに入ったからこそ、できたことでもあるんです。つまり、お話の中で翁の家が出てきたら家を描かなきゃいけないし、庭も描かなきゃいけないし、森に続く道も描かなきゃいけない。そこで設定を考えていくわけです。全体を設計してから入っていくのではなく、竹林と家の距離とかにしても、コンテでいちいち立ち止まって考えながら描いていった。それしか方法はなかったでしょうね、いま思い返しても。

── 芝居に関してはどういう固め方をしていったんですか。特に、姫の幼少時代は、芝居で見せるところがいっぱいあるじゃないですか。

西村 芝居に関しては、高畑さんが口頭と身振り手振りで指示してましたね。それを田辺さんが見ながら、こういうのはどうですか? とアイデアを出したりもしていました。でも、田辺さん自身がおっしゃるように、演出の9割は高畑さんがやってますね。だから、翁の顔が高畑さんに似てるという人もいますけど、それは高畑さんが自分で演技づけしているからなんですよ。怒ったときの顔とか。

── ああ、なるほど! 試写で拝見して、高畑さんに似ていると思いました。西村さんも、そう思いますか。

西村 いや、僕はあんまり分からないですけどね。でも、高畑さんは表情つきでしっかり演技指導されるんですよ。翁が「タケノコとはなんだ! 姫だ、姫!」とか言うときの顔も、田辺さんを前にして、むっ! とやりますからね。

── (笑)。

西村 で、田辺さんはそうやって具体的なものを見て、自分のなかに取り込んでイメージして、画に落とし込んでいく。だから、本当に具体の人なんですよ。抽象的なキャラクターを想像してアニメーションにするということができない、と田辺さん自身は言っていますけど、もうそういうことはやりたくないのかもしれない。だから、結果として近くにいる人間がモデルになっちゃったりしますよね。

── 成長したかぐや姫の芝居も、すごく実感があってよかったんですけど、それも高畑さんの芝居づけの賜物なんですか。

西村 あれはプレスコのおかげでもあります。コンテが30分しかできなくて、しかもシーン3以降が作れなくなっちゃったんですよ。山の世界が分からないから、男鹿(和雄)さんが入ってくれるまで待とうと言ってね。それで間を飛ばして、シーン5、6だったかな、都に引っ越したあとのコンテを描きだしたんです。だから、順番どおり書いてるわけじゃないんですよ。

── そうなんですか。

西村 序盤のシーン1、2あたりに関しては、まだ姫が赤ん坊だから人格がないじゃないですか。シーン5、6になると、姫の人格はもうあるわけです。だけど、それが分からない。例えば、どんな顔で笑うのか、掴めないわけです。結局どうなったかというと、コンテはあがってくるけれども、顔が丸チョンになっていくんですよね。

── 姫のキャラクターが?

西村 うん。僕、ホントに怖くて、田辺さんに聞いたんですよ。これってコンテはこうなってますけど、実際の画面はどうなるんですか? と聞いたら「いや、コンテ以上のものにはならないんじゃないですか」と言われて。

── それは不安ですよね。

西村 こちらは商業映画を作っているわけですから、高畑さんに直談判したんです。絶世の美女という設定なのに、マルチョンじゃ困ると。このままだと姫が全然魅力的にならないかもしれない。高畑さんは「いや、そうはならないんじゃない?」とは言っていたけど、もうその頃にはパイロットフィルムを作らなきゃいけなくて、作画に入らなければならなかった。そこで、プレスコをやっちゃおうと。

── ああ、なるほど。

西村 高畑さんの中にもプレスコでやろうというアイデアがあったし、一方で田辺さんが実感が湧かなくて姫が描けないというのなら、声を先に全部録っちゃえばいいんじゃないか、と思ったんです。声を全部録ってしまえば、その声に引き摺られて実感を持ってコンテを描いていってくれるんじゃないか。そういう制作上の目論見もあったんですよね。高畑さんの考えと、こちらの考えが合致したというか。
 プレスコ録音された声は、高畑さんがこういうふうにしてくださいと演出したものが詰まってるわけじゃないですか。つまり、高畑さんが求めてるのはこういうことなのかと、田辺さんにも伝わるだろうと。

── 役者の声の芝居に、高畑さんの演出が反映されているわけですね。

西村 声っていうのは、やっぱりイメージを喚起する力があるんでね。実際、それによって田辺さんはコンテ上で姫の表情をつけていけたし、作画にしても声に引っ張られていったところは多々あったでしょうね。地井(武男)さんの「ひーめ! おいで!」なんていうところは、プレスコ現場で聞いていたときは生々しすぎて、アニメーションには向いてないんじゃないかと思ったんですよ。高畑さんもそう言ってましたし。あの生々しさは、田辺さんがうまかったから拾えたんでしょうね。

── あそこは、コンテが先にあった?

西村 序盤だから、コンテはあったかもしれません。でも、プレスコではコンテじゃなくて脚本を見ながらやってますから。

── 地井さんの芝居に合わせて、コンテを変えたりもしているんですか。

西村 確かにコンテよりも尺は伸びてるんですけど、地井さんの芝居が長かったから変えたわけじゃないです。でも、音を活かすかたちで、作画で芝居を変えたところはあります。地井さんが「姫~!」とか言って、チュッと口づけするところは、音を活かしてますね。

── あれは地井さんのアドリブなんですか。

西村 ええ。平安時代の爺さんが口づけなんてするかどうか(笑)。あと、地井さんが「ひーめ! おいで!」と言っているとき、田辺さんはその声が泣いている声にも聴こえたらしいんです。だから、最初はムキになってやってるだけなんだけど、カットが変わると、いきなり泣き崩れてるじゃないですか。

── ええ、感極まって(笑)。

西村 感極まったまま縁側から出ていって、姫を抱き上げて「わあ~、姫~! ん~、チュッチュ」ってやる。そこは作画で足しています。そういうアドリブを活かしていく力量が、アニメーターにも必要だった。田辺さんにはそういう力があったし、役者さんたちの芝居にも実感がこもってたから、コンテも進むようになった。冒頭30分のコンテを描くのに1年半かかりましたけど、残り4年半とか5年もかからずにすんだのは、やっぱりプレスコの効果でしょうね。

── コンテはどんな順番で描かれていったんですか。

西村 えーと、シーン1、2が最初にできて、それから5、6、7まで行ったのかな? で、8がなくて10があったりして……。

── シーン10って、どのあたりですか。

西村 御門が来るあたりですね。寝殿造りについては、一からイメージしたり、設計しなくていいから楽だったんですよ。この屋敷は寝殿造りですって言えばいいだけなんですから。それに引き換え、山というのは、どんな山なのか、どんな植物が生えているのか、そういうことを設計しなきゃならない。だから、いちばん最後でしたね、山のパートのコンテができたのは。

── 絵コンテ補佐というかたちで、橋本晋治さんほか3人の方の名前が出ていますよね。どういう関わりだったんですか?

西村 橋本さんの場合は、あまりにもコンテ作業が進まなかったので、橋本さんに入ってもらうべきだと提案したんです。なぜかというと、橋本さんには演出の力があるから。田辺さんの手が遅いなら、もう任せるしかないだろうと。それで、都で捨丸がボコボコに殴られるシーンのコンテを描いてもらったんです。

── ああ、あそこなんですか!?

西村 ラフコンテですけどね。厳密には、ラフコンテ原案と言ったほうがいいかもしれない。結局、橋本さんが描いたもの全てを活かすことはできませんでしたから。橋本さんが高畑さんと話し合って描いたコンテをもとにしつつ、のちに田辺さんと高畑さんが再度描き直しているという箇所もあるし。

── 橋本さんにコンテを頼んだのは、いつ頃のことですか。

西村 パイロットフィルムを作ったすぐあとかな。もうコンテがどうにもならなくて、橋本さんだけでも足りないので、笹木信作さんにもラフコンテをお願いしたんです。笹木さんもほかのお仕事があるというので、さらに佐藤雅子さんにも来てもらって。

── 高畑さんも、田辺さん以外の人に任せることを受け入れたんですか。

西村 高畑さん自身の集中力も、さすがに続かなかったというのもありました。田辺さんと10時間ぐらい話しても、遅々として進まないわけじゃないですか。これだけ説明してもなんで分からないんだ! という状態がずっと続くわけですよね。高畑さんとしても根気が……(笑)。本当に1日なんにも描かないでいるんですよ、ずっと。

── 鉛筆を持ったまま考えてる?

西村 ずーっと考えたまま、描かない。でも、ラフコンテができれば、それをもとに話ができるじゃないですか。だから、田辺さんの仕事自体はスピードアップしないかもしれないけど、高畑さんの考えていることを具現化する人間が、まずは必要だったんです。それが笹木信作さんであり、佐藤雅子さんだった。

── 笹木さんは『(魔法少女)まどか☆マギカ』などのコンテもやってますよね。

西村 うん。で、笹木さんたちがラフコンテをわーっと描いて、それを田辺さんに渡して、田辺さんがアレンジして完成コンテにしていく。笹木さんや佐藤さんは、言わば高畑さんのアシスタントですよね。

── 田辺さんはどんなふうにアレンジしていくんですか。

西村 僕らは「清書」って呼んでましたけど、田辺さんなりのアレンジや、ニュアンスが加わって、部分的に変えたいところは高畑さんと話し合って変えていく。そういうやり方でしたね。

── じゃあ、絵コンテとして仕上がっているものは、すべて田辺さんの画なんですか。

西村 いや、百瀬(義行)さんの画も入ってます。

── それは終盤の飛翔シーン?

西村 飛翔シーンと、シーン17の月からのお迎えですね。

── ほうほう、なるほど。

西村 あそこは全部、百瀬さんのコンテです。部分的に、作画段階で田辺さんがレイアウトを変えたりしてますけどね。だから、コンテ全集が出たら、そこに載ってるのは田辺さんの画と百瀬さんの画だけです。佐藤さん、笹木さん、橋本さんの画は、すべて田辺さんの画に置き換わってるから。

── 橋本さんがコンテを描いたのは、捨丸と姫が再会するシーンだけ?

西村 うん。実は、あの再会シーンはいまの尺の2倍あったんですよ。捨丸が楽しそうに町で次々と盗みを働くシーンがあったんです。饅頭を盗んだりとか。

── あ、じゃあ姫と再会する前のくだりがあったんですね。

西村 うん、いっぱいあったんです。ただ、このままだと大変な長尺になってしまうから、申し訳ないけど切らせてほしいと高畑さんに伝えて、再会するところだけ残して、あとは切りました。尺を減らすとしたら、姫の部分は切れないから、捨丸の部分を切るしかないだろうと。

── じゃあ、お花見のあとには、捨丸の盗みの場面が続くはずだったんですね。

西村 そこもね、高畑さんと田辺さんのイメージが一致してなかったので、コンテの清書が全然進まなかったんですよ。進まないんだったら切るしかない、という理由もあった。このままやってたら絶対完成しないから、止まるぐらいだったらなくしてくれ、と言って。

── 橋本さんのラフコンテは、捨丸のパートまで全部描かれていたんですか。

西村 そうです。橋本さんが全部、完成させていました。だから、橋本さんには申し訳ないと詫びましたよ。

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