COLUMN

002 ヤマトファンより愛をこめて(2013年10月1日)

 『宇宙戦艦ヤマト2199』のメインスタッフの多くが、オリジナル『宇宙戦艦ヤマト』(以下、オリジナルTVシリーズと表記する)のファン世代であったはずだ。『2199』は、そんな作り手がオリジナルTVシリーズに対してたっぷりのリスペクトを捧げつつ、オリジナルTVシリーズにあった矛盾点を修正し、足りないところを付け足しつつ制作したものである。
 たとえば、オリジナルTVシリーズでも、古代進と島大介が、イスカンダルのサーシャとヒロインの森雪が似ていることに驚くくだりがある。2人が似ていることについて、象徴的な理由があったのだろうとは思うが、似ていることについて設定的な理由はなかったし、ドラマの上でもほとんど活かされていなかった。『2199』では、同じくサーシャと森雪が似ているとしたうえで、それを森雪は地球に来ていたもう1人のイスカンダルのユリーシャと同一人物ではないかという謎につなげて、視聴者の興味を惹いた。さらにシリーズ終盤では、森雪がイスカンダル人に似ていることが、物語の大筋に影響を与えることになった。そのあたりについては、オリジナルTVシリーズを観ているオールドファンも先が見えず、展開を楽しんでいたはずだ。
 オリジナルTVシリーズの続編『さらば宇宙戦艦ヤマト ―愛の戦士たち―』『宇宙戦艦ヤマト2』と『ヤマトよ永遠に』で、ヤマトの新艦長として土方、山南が登場する。オリジナルTVシリーズにおいて、彼らは劇中に姿を見せていない。オリジナルTVシリーズ制作の時点で、続編の構想はなかったはずだから、2人がオリジナルTVシリーズに登場していないのは当然だし、劇中では2人とも宇宙戦士訓練学校で働いたと語られているので、対ガミラス戦で前線にいないのもそんなにおかしくないのかもしれない。ではあるのだが、後にヤマトの艦長になるほどの人物が、人類の命運を賭けた対ガミラス戦でまるで活躍してないように見えるのは、どうにも落ち着かない。そう感じていたファンもいたことだろう。少なくとも僕はそうだった。『2199』では1話から土方と山南が登場。土方には空間防衛隊司令官という役職が与えられ、沖田と言葉を交わす場面もあった。同じく1話で山南は沖田十三の乗艦で艦長を務めていた。ヤマトが地球から旅立つ場面では、土方と山南が敬礼をして見送った。土方と山南は対ガミラス戦でも、それぞれの任務があり、地球のために戦っていたのだ。僕が『2199』で溜飲が下がったのが、土方、山南の扱いについてだった。
 驚いたのが、ガミラス側のキャラクターであるタランだ。タランはオリジナルTVシリーズから登場している人物だが、『宇宙戦艦ヤマト2』においてそのキャラデザインが一新されて、見た目が別人のようになってしまった。『2199』では『さらば宇宙戦艦ヤマト』までのタランと『ヤマト2』以降のタランの両者が登場している。つまり、タランは2人いたのだ。外見の違うタランは別人であるとし、キャラデザインの変更に対する整合性をとったのである。8話において、わざわざ2人のタランが同時に登場する場面を作り、テロップでフルネームを表記して、2人が親族あるらしいことを示す念の入れ方(劇場公開版でもこの場面ではテロップが出ていた)。2人は兄弟だったのである。これをファンならではのこだわりと言わずして、なんと言おうか。
 オリジナルTVシリーズでの、ガミラス星を滅ぼした後に古代進が「我々がしなければならなかったのは、戦うことじゃない。愛し合うことだった」というセリフは、『2199』ではなくなり(そもそも『2199』ではガミラスを滅ぼしてはいないわけだが)、別のシチュエーションで森雪が「地球もガミラスも、戦う必要なんてなかったのに。お互いに相手を思い合って、愛しあうことだって!」と言っている。オリジナルの古代のセリフは名セリフではあるが、唐突な発言であったのも事実だ。テーマについて語る重要なセリフを、納得できるかたちに置き換えたということなのだろう。
 『2199』には、このような「なるほど、そうきたか!」と昔からのファンが膝を叩くような仕掛けが山のようにあり、それを追うだけでも楽しかった。それでは『2199』は、昔から観てきたオールドファンだけが楽しめる作品だったかというと決してそんなことはなく、物語構成、登場人物の描写を含めたテイストについては、現代の視聴者が観やすいと思われる、口当たりのよいものとして作り直している。つまり、旧シリーズを知らない視聴者にも向けて作られたシリーズでもあったのだ。その結果として『2199』は多くの人たちに受け入れられた。
 オリジナルTVシリーズはドラマチックであり、悲壮感に満ちた作品であった。オリジナルTVシリーズと『2199』の違いを指摘して、非難することはたやすい。ではあるが僕は、『2199』において、「ファンならではのマニアックなこだわり」と、口当たりのよい作品を作るという「大人の仕事」を両立させたことに拍手を送りたい。

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