COLUMN

第53回 前進を始める

●2013年9月28日(土)

 世間でいう「あまロス」感とか全然ない。
 最終回放映前夜から集まって朝を迎えるという、なかはら★ももたさんたちのイベント「あまちゃん最終回」で、熱唱するももた先生の前で赤青のサイリウム(浦谷さんが買って持ち込んでいた)を振り回して完全燃焼できた。
 オンデマンドとかBDとか繰り返し見返すことになるのでは、という予感も外れて、作品的にも消化しきれた感じ。
 その時点で自分のいってたことを聞いて知ってる人は知ってると思うのだが、6月頃はすでに、「少女バディものを真剣に考える」だとかいい出して、さらには、
 「自分なら、最後はオープニングの堤防の上を2人に走らせる」
 と、いいまくっていた。
 ラストシーンの「あのトンネルの先に未来があるのだ」のことは、前回ここに書いたのそのままだった。それは自分が特別なのではなくって、あの行き止まりのトンネルの前に実際に立った人はみな思ったことだと思う。
 思えば、自分ならこの先の展開はこうする、と思う余地をたくさんに与えた「日刊」展開だったのが、「あまちゃん」という作品をあそこまで多くの人の「内側」に浸透させたのじゃないかと思う。
 創作物の大量消費になって久しいのだけど、与え手側の目論見と多く裏腹になってしまいがちなことに、受け手側の中で熟成するのにはそれなりの時間が必要なのだと思う。「あまちゃん」の人気に大きく貢献した青木俊直さんの「あま絵」だって、あそこまでボリュームに走り始めたのは、放映第4週に入り始めた頃からだった。
 『マイマイ新子と千年の魔法』は、劇場公開から2週間経った3週目に入ったころからお客さんに来ていただき始めたのだけれど、いまだに公開1、2日目の集客データが影響してしまって、「相手にしてもらえない」ことがある。
 けれど、当の配給会社の担当プロデューサーからさえ、その後にわれわれ自身の手で公開方式自体を「リブート」したラピュタ阿佐ヶ谷上映の舞台挨拶で、
 「今のシネコン的システムは『マイマイ新子』のような映画の容れものとして向いていなかった」
 という発言があったほどのことなのだ。
 なればこそできる「別の方法」もあるはず、『マイマイ新子』の3週目以降はそれが実現できかけていた、という想いがある。『この世界の片隅に』は出発時点から、「われわれの『マイマイ新子』」のその先にあるものとして考えていた。
 そのことを理解し、同調してくれる人を求めていかなくてはならない。この業界の中ではそれが結構難しい。それが時間がかかるひとつの事情になってしまっている。もちろんかかってしまう時間を無駄にしたくはなく、例えばこのコラムをもう1年にもわたって書きつづけてきているように、それから自費でポスターを刷ってみたり、できることはしているつもりだが、そういうのは個人的努力の範疇にすぎなくって、それだけではまだ足らない。望むものを作るにはぶっちゃけもっとお金も欲しいし、できあがったものを「これならいけるのじゃないか」と思うレールに乗っけて公開してもらえるようにするには、「同士」が必要なのだ。しかも、個人でではなくって、会社単位で乗っかっててきてくれるような。けっこうたいへんな話なのだ、こういうことが。

●2013年8月30日(金)

 アニメーションの企画プロデューサーをされている方とお目にかかった。
 企画を仕事とする人にとって、すでに脚本も完成ずみならば、絵コンテもできあがって、作画作業に入っている作品にはそれほど携わろうという気にはなれないものなのかもしれない。けれど、その完成している絵コンテを見て、これは捨て置けない、と思っていただけたとのことだった。
 この作品だけじゃなくって、将来的なことも含めてどんなものが作りたいのか、ということも聞いてもらえた。もちろん『この世界の片隅に』を、『マイマイ新子』の経緯を踏まえた上で、どんなふうに世の中に送り出していきたいと思ってるのか、ということにも耳を傾けてもらうことができた。
 そこまで聞いて「じゃあ、応援しよう」という話ではなく、プロデューサーとして携わること前提の上で、「じゃあどんなふうに進めるべきなのか」ということをきちんと把握するために、話を聞きにきてもらったのだった。

●2013年9月24日(火)

 新しく加わった企画プロデューサーが、忙しすぎるご本人に代わって実行勢力として働いてくれるプロデューサーを連れてきた。と思ったら、旧知の人だった。
 「結局、この仕事でご一緒することになっちゃいましたね」
 前から、別の企画にかこつけて、『この世界の片隅に』への応援も募れないかと考えてもらったりしていた。
 「懸案があるんですど」
 と、切り出してみた。
 11月に都内と、広島でそれぞれ行われるイベントで、『この世界の片隅に』のプロモーション映像を公開してもいいだろうか、ということだった。
 「何でいけない理由があるんですか?」
 と、企画プロデューサーに問い返された。
 「いえ、別に、特には、別に」
 実際に映画が完成・公開するまでにはまだまだ時間がかかる。どうひっくり返るかわからないことを今の時点から世の中に広めてしまうことに危うさを感じてしまう人もいる。
 この場で確認されたわれわれの戦略。
 公開から1日、2日の成績にすべてをゆだねてしまう大手配給会社のコンビニエンス・ストア的方法論には乗らない。公開は、草の根的な方法をとってでも、長期スパンで繰り広げられるように考える。
 そのための宣伝は今から始める。あるいはすでに始まっているものをこのまま進める。そしてずっと続けていく。
 「ところで、10月13、14日に呉でロケ地巡りのイベントをやってもらうことになってるんですが」
 「すばらしい! それももちろん」

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