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螺巌篇 第3部 監督と作画陣、それぞれの求めるツボ

螺巌篇 第3部 監督と作画陣、それぞれの求めるツボ

取材日/2009年6月19日 | 取材場所/東京・東小金井 GAINAX | 取材/小黒祐一郎、岡本敦史 | 構成/岡本敦史
初出掲載/2010年1月12日

── この辺で、作画についてうかがいたいと思います。基本的には、TVシリーズと『紅蓮篇』の面子が続投しているかたちですか。

今石 そうですね。いつもの人たちが全員参加してくれていて、あとはゲストの方々が何人か。

大塚 吉田健一さんとかね。

今石 吉田さんは今回いちばんのゲストですよね。あと、田中宏紀さんも初参加か。

── では、まず前半のほうから順を追って、新作パートの解説をお願いします。

今石 前半の大きなところでは、カテドラル・ラゼンガンのくだりですね。あそこは、ほとんど雨宮と牟田口(裕基)さんの2人で描いてます。カテドラル・ラゼンガンの手が、もの凄く四角いところがあるんですよ。設定上はまったく四角くないんですけど、牟田口さんって何もかも定規で描く人なんです。「全部がガオガイガーになってくる!」っていう(笑)。修正するのが面倒くさかったので、そのままになってます。牟田口さん合わせで、雨宮にも四角く描いてもらいました。

── (笑)

今石 牟田口さんはTVでもいっぱい描いてもらったので、最初は、終盤の天元突破シリーズのリレーに参加してもらおうかと思ってたんです。でも、超銀河グレンラガンを描かせてくれという本人の強い希望があって。じゃあ、まずはカテドラル・ラゼンガンだと思って、前半のシーンを振ったんです。ただ、どうもその場面ではなかったらしくて。

── やりたいカットが違ってたんですか。

今石 そう。TVの25話で、キタンが特攻した後、銀河螺旋海溝から超銀河グレンラガンが出現するシーンがあるんですけど、あそこを描き直させてくれと言い出して。もうTVの画のままでいくはずだったんですけどね。どうしても描きたいという話だったので、じゃあ……って事で描いてもらったら、なんか血の涙を流してるんですよ。非常にこう「勇者シリーズ」テイストというか(笑)。

── なるほど(笑)。

今石 独自のこだわりをもって描いてましたね。あとは変形後、顔がニョキッと生えるとか。海から出てきた後、正面でドンとキメるとか。そういうところをやたら描き直してもらってます。

── アンチスパイラルのところに行く途中で、妙に手がデカいところもそうですか?

今石 そうです。あれも牟田口さんです。

── 「勇者シリーズ」というか『(超獣機神)ダンクーガ』っぽいですよね。

今石 あのカットに関しては、僕のイメージは完全に『ダンクーガ』なんです。

── やっぱり。あの前後はずっと『ダンクーガ』調ですよね?

今石 ええ、OVA版の冒頭ですね。ワープ空間は、あのポーズで飛ばなきゃいけないんです。

一同 (笑)

今石 あそこはやっぱり、牟田口さんにやってもらってよかった、と凄く思いますね。あれだけメカに愛情を持って描ける人って、本当に貴重ですから。

真鍋(広報) 牟田口さん、机が凄かったですよね。ロボットのおもちゃが所狭しと置いてあって。

今石 ああ、そうだったね。

真鍋 作画参考用に、リボルテックのアークグレンラガンと、超銀河グレンラガンのモデルを海洋堂さんから貸してもらったんですよ。そしたらもう、常にそれを脇に置いて、いじりながら作画してました。

今石 でも、リボ系をまんま描くのは雨宮のほうだけどね。アークグレンラガン、よく見ると関節にリボ球が入ってるんですよ(笑)。

── それ、フィルムにも残ってるんですか?

今石 残ってますよ。リボルテックのシリーズは、山口勝久さんという原型師の方が作ってるんですけど、独特の面取りをする方なんです。それを雨宮が本編で再現してたりする(笑)。設定とちゃうやん! っていう話なんだけど。

── 旧『ルパン三世』で、銃がモデルガンで描いてある事のオマージュじゃないんですか?

今石 ああ、そうなのか(笑)。でも、TVの時はまだグレンのリボルテックが発売されてなかったから、リボルテックになったらいいなーという雨宮個人の思いを込めて、リボ球を描いたりしてましたけどね。7話でグレンが関節を引っ張られると、中に丸い球があったりとか。

── それはちょっとイカレてますね(笑)。

今石 あの頃は雨宮も遠慮気味に描いてたんだけど、劇場版の頃になるとたくさんグレンのリボルテックが出てたんで、あからさまにリボ球が入ってます。

── 刑務所の新作カットは、やっぱりTVと同じく芳垣祐介さんなんですか。

今石 そうですね。刑務所と、グレン団が酒場でくだ巻いてるところは、芳垣です。ああいうのを描かせたら巧いですからね。あと、序盤でカミナシティができていく7年間を圧縮して見せるシークエンスも、3分の1くらいやってるかな。モブ系と、女の子がメインじゃないシーンは、大体もう芳垣にお任せ。

大塚 なんか、モブのシーンで人をやたら増やしてくるんだよね。

今石 うん、病的に増やしてますよ。

大塚 コンテで10人ぐらいと書いてあったのが、レイアウトで20人ぐらいになってたりする。なんで自分から大変にするんだろう、と思った(笑)。

今石 逆に、考えないで描くとああなるんじゃないですか? とにかく時間がないから描け描け、みたいな感じでやってると、ただもう隙間を埋めるみたいな事になるんじゃないかな。

大塚 刑務所の囚人のモブも凄かったね。

今石 あそこも特に増やしてくれとは言わなかったんだけど(笑)。あの刑務所のシーンは、実は林(明美)さんが描きたがっていたんですよ。

── へえー。

今石 あとからそれを知って、意外でしたね。林さんには、結婚式の直前、ニアがヨーコに日記を渡すシーンを描いてもらいました。ああいうシメのしっとりしたシーンは林さんに振る、というのがパターンになってたから。

大塚 そういうところばっかり振られるんで、本人的には、もうちょっと動くところをやりたかったらしいんだけど。

今石 林さん、刑務所でシモンが頭から味噌汁みたいなのをジョボジョボ〜ってかけられるところに、過剰反応してましたね(笑)。もう全部終わった頃に「こんなシーンがあるんなら、私が描きたかった!」みたいな事を告白されて、ええーっ!? と。

── そこなんですか。

今石 やっぱり女性として、あのシーンは凄くツボだったらしいんですよ。ああいう、普段は強がってる男が落ちぶれていくさまみたいなのが、グッとくるという(笑)。

── ああ〜。

真鍋 林さんの口から「あのシーン、エロいですよね」という言葉が出たのは衝撃的でしたね(笑)。

大塚 まさかそんな、ねえ。

今石 僕らは『あしたのジョー』絡みの面白シーンとしか思ってなかったのに。

一同 (笑)

今石 最初にそれを言っていただければ、あそこは林さんに振ったのになあ、と思いましたけどね。シーン自体も、もっとねちっこく描いたりして。

── 林さんにそういうチャンネルがあるとは思わなかったですね(笑)。

大塚 あとは、章ちゃん。中村章子がシモンを結構描いてます。(TVの画に)細かく描き足したり、シーンを足したりしてるところは、かなりやってる。シモンを描きたがる人って、珍しいもんね。

今石 そうですね。大体ヴィラルとかロージェノムとか、サブキャラのほうがいいっていう人が多い。人気ないですからね、シモン(苦笑)。まあ、主人公の運命っちゃ運命ですけど。中村章子も、あんまり自分から「ここがやりたい」とかハッキリ言わないから分からなかったんだけど、要するに、シモンのところだと積極的にやるんですよ。よくよく話を聞いたら「シモンをコンプリートしたい」と。子ども時代から青年期、最後の初老期まで、全部のパターンを描きたかったらしくて。

── じゃあ、エピローグもやってるんですか?

今石 あそこは確か、2原でコンプリートしたんですよね。1原は錦織ですけど。

── なるほど。ちなみにエピローグの新作カットも、やっぱりTVと同じく錦織さんが?

今石 そうです。錦織が1原で、いろんな人が2原をやってる。まあ、ほとんど錦織原画と思っていいところですよね。中村章子と雨宮は、かなり初期から入ってもらっているので、歯抜け部分をちょこちょこやってもらってます。ロシウやシモンのちょっとした描き足しとか。まあ『紅蓮篇』の時と一緒ですよね。

大塚 そうだね。

今石 いちばんまとまってたのは、シモンがコクピットで血反吐を吐く場面と、多元宇宙でカミナと会うところで、キタンが描き足されてる一連のシークエンス。そこも中村章子です。

── 血反吐を吐く場面で、面白いエフェクトが描いてありましたね。あれはなんなんですか?

今石 あれは螺旋病が発病してるという裏設定なんです。

大塚 血が噴き出して、それが渦を巻いているという。

── あのエフェクトも中村さんなんですか。

今石 ええ。レイアウトで「このぐらい渦を足して」みたいな指示はしましたけどね。あんまりあからさまにやると笑えちゃうから、よく見たら渦、くらいにしておこうと思って。

大塚 あのくだりは、ほぼ全部、章ちゃんがやってます。

今石 あそこは最後まで粘ってたもんなあ。

大塚 ねちっこくやってくれて、よかったよね。あれは男がやってたら、もっとアッサリした画になってたかもしれない。

今石 ただ力強いだけ、みたいな感じになっちゃったり。

大塚 章ちゃんのおかげで、だいぶシモンの主人公度が上がったと思う。

今石 そうですね。多元宇宙の描き足しも、結構ハードル高いところなんですよ。平松作監回に挿入されるカットだから「やりづれえ!」っていう(笑)。

── 平松クオリティと馴染むように描かなきゃいけないわけですね。

今石 そうそう。平松さん本人にはエンディングを頼んでるから、ここは頼めないしなあ……という事で、中村章子に。「向かいにシモンがいるから、シモンも描けるよ!」とか言って(笑)。

 あと、話は遡るけど、プロポーズのシーンは西垣(庄子)がやってますね。かなり丁寧にやってもらって、凄くよかったです。

大塚 助かったよね。

今石 うん。ちょうど『紅蓮篇』を作ってる間に、西垣は『カイバ』の原画をやってたんですよ。そこで結構、揉まれたのかな。まあ、元々丁寧でしたけどね。そのうえ手も速いんで、またあちこちで描き足しをやってもらってます。非常に助かりました。

── 他に、たくさん描いてくれた方は?

今石 TV9話とかで作監をやってくれた向田(隆)さんも、結構やってますね。30カットぐらいか。

大塚 そうだね。

今石 ヴィラルが牢屋でニアにボコボコにされるシーンとかを振ってます。あそこはヴィラルが面白いところだったので。その時に、ヴィラルが前屈みになって、後ろのシモンに話しかけるみたいな場面で、肩甲骨がボコッと出てるみたいな背中のデコボコを表現してるんですよ。それがちょっと新鮮でしたね。ああいう人体の立体感をカッコよく描いた画って、あんまり見た事ないな、と思って。

── 自殺しようとするロシウを、キノンがビンタして止めるところは?

今石 あのシーンは丸ごと、山口(智)が持っていきました。キノンが涙を流して、えぐえぐ言ってるカットを描きたいがために。あれはもはや別の番組でしたね(笑)。

── 『グレンラガン』っぽくない、というか今石ワールドにはない世界ですよね。

大塚 同じカット内で、キノンとシモンの力の入れ具合が全然違うのが凄い(笑)。

今石 いやあ、もの凄く露骨でしたね! シモンなんかどこ見てるか分かんないような状態で、後ろのほうで力なくボーッと立ってるだけだもの(笑)。

── まるでカロリー数が違う。

今石 ええ。0と100ですよ。

一同 (笑)

今石 どのカットにも頬ブラシですからね。凄く分かりやすいなあ、と思って。ニアがアンチスパイラルにいやらしい事をされそうになっているところも、山口がちょっとやってます。数少ないエロ担当なんで。ああいうところでもニアに頬ブラシ入れてくるんですよ。それじゃ受け入れてるように見えちゃうだろ!

── (笑)。アッハンみたいな感じになってるわけですね。

今石 そう。それはさすがに外しましたけど、頬ブラシ。

── 後半、宇宙をバーッと切り裂いて、巨大なアンチスパイラルがニュッと出てくるところは、どなたが描かれてるんですか?

今石 あれは桑名(郁朗)さんです。ああいう不気味かつ少し笑える感じを、何も言わずに表現してくれるところは、さすがですね。ファーストカットの、カミナの墓からデカブツの画に移行するところもそうです。ああいうレイアウト勝負のところ、巨大感がほしいところは、飛び飛びで桑名さんに振ってますね。

── グレンラガンがアンチスパイラルにぐちゃぐちゃにされる、ちょっとスプラッター風味というか、グロテスクな場面も凄かったですね。

今石 あれが田中宏紀さんです。最近、あちこちでもの凄い量の原画を描いたりしてる人なんですけど。50〜60カットは当たり前みたいな。

大塚 最初に担当パートを振った時、「このぐらいでいいんですか? もっとやりますよ」的な事を言ってたんだよね。ちょっとびっくりした。

今石 「どんだけ余裕なんだ、この人は」と思いましたけどね。でも、今回は15ぐらいでお願いします、と。誰でも10超えると「終わるかな?」って心配になるような状況でしたから。

大塚 スケジュールに余裕がないから、みんなそのぐらいの量にしてもらったんです。結果的には、田中さんも他の仕事と被ってたから、ギリギリだったみたいだね。

今石 ギリギリでしたね。メカのところだから僕が作監チェックするんですけど、最後のカットはダビング現場に持ち込んで修正を入れてました。

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