COLUMN

第49回 広島の夜は2度ふけて

●2013年8月31日(土)

 新幹線の始発で広島に向かう。前日夜遅くまでかかって作った、『この世界』のテストショットをとりあえずPV風に編集したものをもって。人前で話すときに、画も何もなしではつらいので、とりまとめてみた画像データも携えて。家では2時間くらいしか寝てないので、車中うとうとできて道中が大分(意識の上で)ショートカットできてしまった。
 広島駅に着くとちょうど午前10時。防府日報の宮村さんがロータリーに車を停めて待っておられて、比治山大学まで乗せてもらう。
 大学ではちょうど明日1日限りの展示のために、学生さんたちが設営に取りかかろうとしていた。展示するものと展示プランは、久保直子先生の手で入念にプランニングができている。展示していただくのは、自分の32年分くらいの仕事上の残渣みたいなものの数々。久保先生は元マンガミュージアムにおられた方なので、すごくかっこよいプランで展示してもらえる幸せ。デザインされたキャプションのボード、大きなアクリル板などが次々と運び込まれてくる。
 エレベーターを降りると展示会場で、そのとなりのホールで明日は用意してきたものを映写しつつ喋ることになるのだが、とてもたいへんそうな展示の準備の方に人手が集中していて、ホールの方は何も手がつけられるに至ってない。宮村さんと舞台袖に行って電源を入れてみる。ええっと、これはスクリーンを下すスイッチ。こっちのは舞台の照明、それから場内灯のスィッチ、と確認してゆく。
 スクリーンに映写しつつ喋るのだから、演壇は舞台上脇の方に置くとして、映写しつつ喋るあいだ真っ暗なのも様にならないので、当てられるスポットライトがないか探す。どうも、客席真上のリング・バトンに吊ってあるのがそうらしいが、これは舞台袖からはスイッチングできない。映画館でいう映写室の位置にPAルームがあるので、そこへ登る階段を探す。ちょっと迷って見つけたくねくねした階段を登ってみる。こうした施設のバックヤードの通路はたいてい蟻の巣みたいになっている。
 「あったあった。ありました」
 と、宮村さんがスポットライトの管制ボックスを、いじり始める。宮村さんは実はもともとは実写映画の音響マンなので、この辺はお得意。
 舞台の上手袖近くに置いた演壇を照らせるライトは見つけたのだが、半分スクリーンも照らしてしまっている。向きを変えたい。バトンは下がらないのか。ところが、バトンを下げる装置が見つからない。ここで早くも昼食タイム。中に焼きそばが入ったお好み焼きが届いている。
 ちょうど昼食の時間に、もう一方『マイマイ新子』の常連ファンの方がのぞきに見えたので、しかもこの方がいい具合に長身だったので、お好み焼きを食べていただいてから、脚立に登ってもらう。ちょっと棒で操作してもらって、スポットライトの向きを変えることができた。
 次は持参したパソコンからの映写テストと思ったら、なんとACアダプターを家に忘れて来てしまっていた。午前3時半に目が覚めたとき、枕元のノートPCを荷物に突っ込んだ記憶はあるが、巻き戻してみても電源コードをどうこうした記憶がまるで再生されない。
 どうする、どうする? PCを借りることはできるのだが、中身の問題があってややこしい。スマホで中古パソコン店を探すと、なんとこの大学のすぐそばに一軒ある。宮村さんの車に乗せてもらって、向かう。そのあいだに、ほかにも広島に集結しつつある『マイマイ新子』常連ファンの方々と連絡が取れ、1人が同等品を持ってきている様子、もう一方が市内のパソコンショップをのぞいてみましょうか、といってくださる。車で行った中古パソコン屋さんに、自分のと同じPCの中古は確かに売られていたのだが、アダプターだけは在庫がない。おそろしいもので、一瞬、パソコンごと買ってそのアダプターを使う、というアタマになりかけたが、宮村さんが現実に引き戻してくれた。結局、これは同じ規格のものが市内で購入可能という連絡が入り、一件落着。
 大学へ帰り、再度セッティング。『花は咲く』の映写用データがMac用に初期化して使っていた外づけハードディスクに入っていて、これを自分のウィンドウズPCに移せない、という問題が起こる。USBメモリーを介せばよいのだろうけど、たまたま目の前にあったUSBメモリーに移すにはデータがデカ過ぎてしまったのだった。ちょっとだけリサイズして小さなデータにしてみるしかない。その方法で映写の土台になる自分のパソコンにデータを移し、映写テストしてみる。プロジェクターの品位の問題もあって、解像度はこれくらいで十分とわかり、この問題もクリア。
 プロジェクターのテストのために、自分のパソコンをオンデマンドにつないで、この朝は新幹線に乗るために見ること叶わなかった「あまちゃん」を映写してみる。いいなあ、自分1人の劇場版になってる。
 とかいってるところで、ところで当日の司会はどうするのか? ずっと展示設営の陣頭指揮を執っている久保先生を呼んで、舞台上に立ってもらって、もう一灯のスポットライトで照らしてみる。ちょうどよい位置を決めて、足元バミり。ついでに演壇もバミり。
 宮村さんが、そういえばと防府日報社からこの秋に出版する予定の「2014年『マイマイ新子と千年の魔法』カレンダー」の打ち合わせが入る。これに使う画像15点は全部こちらで作って、先にお渡ししてある。そのそれぞれに短いキャプションの原稿が欲しい、というご依頼。
 と、ここで、久保先生から、
 「展示の脇にセットしたモニターに映す作品映像、どうなりましたか?」
 しまった、それも自分のなすべき仕事だったのを、そこまで頭が回らなくなってしまっていた。といって、わけのわからない紙切ればかり展示してあるところに筋を通すのが「作品映像」であるわけなので、ここもまたなんとかするしかない。
 その解決の過程がかなりすごかったのだが、それは語るとしてもまた別の場所で、ということにしたい。いずれにしても、すでに広島市内に入っておられた、あるいは翌朝家を出る予定だった常連ファンの皆さんにはどれだけお世話になってしまったことか。
 先にACアダプターを見つけてくださった市内滞在中の方にもこの件でもお世話になり、主力級の解決っぷりを見せてくださったのだが、氏はすでにこのあと展示設営を終えた学生さんたちとの懇親会の会場探しまで請け負わされてしまっていた。なんという人使いなのだか。
 ところで、その懇親会は行われない。夜遅くまで展示のセッティングが長引いて、それでも終わらなかったのである。守衛さんが回ってきて、もう消灯施錠したい、といわれ、解散。つづきは翌朝。1日限り数時間だけの展示のために、ほんとうに申し訳ない限り。

●2013年9月1日(日)

 10時半頃会場に着いたら、設営がすっかり終わっていた。きっとまた朝早くからいろいろあったのだろうなあ、とありがたく思う。
 まだ最後まで足らなかったものもあったが、はるばる関東からお客さんに来る人にこの朝新幹線でもってきていただいて、それが無事に届いてセット、これで全部完了。
 この頃から少しずつお客さんが入り始める。広島での資料探しが全くの手探りだった頃からお世話になってきた方々もおられ、イメージボードやレイアウトの上で試行錯誤しながらもちょっとずつ形ができて来たものを見ていただくことができた。さらに新しく、広島と呉の古いマンホール蓋についての自筆の資料を持ってきてくださった方ともお知り合いになれた。
 時間が来たので、ホールの壇上に上がって挨拶し、用意してきた映像や画像を映しながら喋りはじめてみたのだが、思ったより時間が短く感じられてしまい、開き残してしまった画像ホルダーもあった。
 喋り終えてうしろに下がると、旧知のNHK広島放送局の記者の方と、それから中国新聞の取材が待っていた。あとでニュースとして取りまとめていただいたものを見たら、そもそもの自分の仕事はじめから時系列的な話をしたつもりだった中で『この世界の片隅に』の部分がものすごくクローズアップされていて、そうだよなあ、この企画あっての広島とのご縁だものなあとあらためて思うのだった。でありつつ、そこへ至る30ウン年分の話や資料展示をさせてもらえていたというのが、この土地の懐の深いところだと思っている。
 アマチュア時代の先輩の五味伸一さんも来ておられて、なんと最近は広島住まいになっておられたとのことで、終了後の懇親会では輪の中心になってはしゃぐように盛り上がっておられた。そのまま二次会のカラオケにまで引率していただき、ここでまた午前0時までマイクを握っての大盛り上がりで、五味さんのエネルギッシュまで抱え込んだ広島いっそう恐るべし、と思わざるを得ないのだった。

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