COLUMN

第44回 おもかげを見つけに行って不思議に出会う

●2013年7月26日(金)

 この夏も『マイマイ新子と千年の魔法』があちこちで上映していただけるらしい。そのひとつ、京都国立博物館での上映は野外上映とのこと。しかもそれは、「遊び」をテーマにした特別展の一環として行われるということで、館内では諾子がひとり遊びしていたような双六盤などが展示されつつのことであるらしい。さらにしかも、博物館の場所は東山を下ったところ、諾子が清少納言となった晩年に、最愛の主人・中宮定子を弔うためにその墓所近くに住んでいたといわれているあたりのすぐ近く。これは行ってみたいし、どうせ行くのならお客さんの前でそういったことも話してみたい。製作員会の方から上映サイドに連絡してもらって、なんと急遽、上映前に挨拶、上映後に解説させてもらえる時間を取っていただけることになった。
 ところで、28日には広島で用事がある。2日かけて京都・広島を巡りゆくのなら、自分の車で行ってみようと思った。これまで何回か行った「この世界の片隅に」の広島・呉ロケハンは、新幹線を使ったり、夜行バスに乗ってみたり、大人数で行くときには自動車を使ってみたりいろいろしてきたのだけれど、車で往復するとなるとなぜかほかのスタッフが交代で運転してくれることが多くなって、ほとんど自分ではハンドルを握らずにすんでしまう。
 「新東名は新しいし、すいてて走りやすいなあ」
 とかいわれても、自分は後部座席で寝て過ごしている間のことだったりで、なんだか欲求不満。なので、今回は1人で運転して行ってみようと思ったのだった。

 京都までの道はなんてことなく着いた。ホテルは国立博物館のすぐ裏に取ってあったのだが、チェックインの時間より早く着いてしまったので、鳥戸野陵のあたりに寄ってみた。定子が葬られているみささぎ、諾子が晩年そこに「帰り住んだ」と伝えられている月輪のあたり。諾子のおもかげがどこかにないか、と思っていたのだけれど、そこは予想外に薄暗く、もの寂しく感じられてしまった。
 夕方ごろ、博物館の館内を2巡くらい眺めて周り、上映の設営をされている担当の方々にご挨拶をし、いったん外へ出てとなりの豊国神社に残る伏見城の唐門を眺めに行ったりした。そんなふうに京都には眺めるべきものがいっぱいあるのだが、京都国立博物館もレンガ造りの建物自体が重要文化財で、そんな庭で自分の映画が上映されるのは、不思議といえば不思議であり過ぎた。
 野外上映には、いつも防府に集まってくださるファンの方々が今回もまた各地から来てくださっていたのだが、それ以外の方がことのほか多く来ておられ、そのことだけでもわざわざここまで来た甲斐を感じられた。思えば、自分自身『マイマイ新子と千年の魔法』を観るのもかなり久しぶりなような気がして、ちょっと新鮮な感じでスクリーンを見つめていた。かなり色々な偶然が作用しなければ、こんな内容の映画の企画が通ることはないだろうし、それでも生み出されたものはいまだに外に開けている。
 上映が終わって、マイクを持って喋る時間も終わって、以前は山口フィルムコミッションにおられ、今は防府日報の記者である宮村さんが、公開当時のB全判のポスターをわざわざ持ってこられていて、ご希望のお客さんに差し上げることができた。
 「サインを」
 と、サントラ盤CDを差し出してくださった方があり、見ると3年前の日付が入った自分のサインがすでにジャケットにあった。
 「前に大阪のシネ・ヌーヴォで上映のときにもらったんです」
 なんだかありがたくって、しかたがない。
 いつかまた関西に戻ってきたいなあ、フィルムとともに。
 館長さん、総務課長さん、博物館の方々、上映スタッフの方、みなさん優しくって、それもまたありがたかった。

●2013年7月27日(土)

 車でさらに西へ向かう。
 広島に早めについたら、どこへ何を見に行こう、と思いつつ高速に乗ったのだが、聞いていたとおり宝塚付近の渋滞がすさまじく、結局、広島にはちょうどいい時間に着くことになってしまった。
 夕方から広島で中川幹朗先生と約束がある。中川先生は広島の高校の先生なのだけれど、ヒロシマ・フィールドワークの実行委員をしておられ、今回のフィールドワークでは、わざわざ映画『この世界の片隅に』の準備に役立つようにと中島本町をテーマに取り上げてくださっている。
 2011年頃、中島本町のかつての姿を探し求めていたころ、戦前・戦中のこの町の姿を被爆前に近所に住んでおられた森冨茂雄さんという方が記憶をもとに絵に描かれて、それをヒロシマ・フィールドワーク実行委員会で冊子にまとめられた、ということを新聞記事で知り、手に入らないかと電話してみたことから中川先生とのご縁ができた。先生はこうの史代さんともすでにお知り合いのようだった。2012年の広島ダマー映画祭でワークショップを開いたときには、わざわ来てくださって、はじめて面と向かってご挨拶することができた。
 「御幸橋のたもとの店で待ってますから」
 と、今回は晩御飯を誘ってくださっていたのだが、いつも資料の入手ではお世話になっている広島の古書店・あき書房の店主である石踊一則さんも来てくださった。それから、いつもいつもお世話になってばかりの広島フィルムコミッションの西崎智子さん、比治山大学美術科の久保直子先生もお越しくださった。
 映画の冒頭、中島本町のシーンのレイアウトは、具体的に実在する建築が登場するカットのものはひととおり終えてあるので、それは持参していた。
 「この店の向かいに住んでおられた方は知ってるので、明日お会いできるように電話してみましょう」
 「ここの家の方もおられますよ」
 と、中川先生はその場から携帯電話であちこちに電話してくださって、すでに予定されていた以上の段取りをたちまち整えられてしまった。

 外へ出ると、宇品港の花火大会の晩であり、少し離れたこのあたりから見物している人の姿もかなりあった。われわれも京橋川に架かる御幸橋の上から、上がる花火を眺めた。まさか、インターネットを通じて古本を注文していた古書店のご主人とこうして花火を眺めることになろうとは。

親と子の「花は咲く」 (SINGLE+DVD)

価格/1500円(税込)
レーベル/avex trax
Amazon

この世界の片隅に 上

価格/680円(税込)
出版社/双葉社
Amazon

この世界の片隅に 中

価格/680円(税込)
出版社/双葉社
Amazon

この世界の片隅に 下

価格/680円(税込)
出版社/双葉社
Amazon