COLUMN

第6回 進化し続けるサウンド ~ルパン三世~

 腹巻猫です。前回の入稿後、俳優・声優の納谷悟朗さんの訃報を聞きました。『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長、『ルパン三世』の銭形警部をはじめ、特撮ファンにはショッカーの首領やウルトラマンAの声で、吹替洋画ファンにはチャールトン・ヘストンやクラーク・ゲーブルの吹替で親しまれた名優。威厳と野性味が同居した声の存在感は絶大でした。ご冥福をお祈りします。


 今回は納谷悟朗追悼の思いを込めて、氏の代表作のひとつであり、もっとも長く出演したシリーズでもある『ルパン三世』の音楽を取り上げよう。

 『ルパン三世』は1971年にTVアニメ第1作が放映され、現在もさまざまな形で新作が制作されている人気シリーズだ。音楽は、第1シリーズを山下毅雄が担当。1977年にスタートした第2シリーズから大野雄二が参加して、30年以上にわたって『ルパン三世』の音楽を作り続けた(TVスペシャル『ルパン三世 トワイライト☆ジェミニの秘密』[1996]と劇場版『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』[1996]のみ根岸貴幸が音楽を担当したが、テーマ曲は大野雄二の曲が使用された)。昨年放映されたスピンオフ的新作『LUPIN the Third 峰不二子という女』では菊地成孔が音楽を担当し、新たなイメージを打ち出している。
 40年にわたる『ルパン三世』の音楽を1枚のアルバムに集約して語ることは難しい。今回はこれまでと趣向を変えて、ディスクガイド的にベストアルバムを紹介しながら、『ルパン三世』の音楽の変遷を振り返ってみたい。

 『ルパン三世』第1シリーズの音楽を担当した山下毅雄は、「七人の刑事」(1961)、「プレイガール」(1969)、「大岡越前」(1970)といったTVドラマや、「ジャイアントロボ」(1967)、『スーパージェッタ―』(1965)、『ガンバの冒険』(1975)などの特撮・アニメ作品で知られる作曲家。アバンギャルドなサウンドと哀愁が共存するユニークな音楽が魅力だ。ロックやジャズのテイストに女声スキャットを加えた大人っぽい雰囲気の音楽は初期の『ルパン三世』にぴったりだった。放映当時、筆者は小学生だったが、「LUPIN the Third」を繰り返す型破りなオープニング主題歌は同級生の間でも話題になり、よくまねされていたことを覚えている。大人っぽいのに子どもの心をつかんでしまうヤマタケ(山下毅雄の愛称)音楽おそるべしである。
 残念ながら『ルパン三世』第1シリーズの劇中音楽はマスターテープが行方不明になっており、オリジナル音源を収録したサントラ・アルバムはリリースされていない。ヤマタケ・ルパンをまとめて聴くなら、TVサイズ主題歌とレコード版主題歌、そして、山下毅雄自身が1980年に『ルパン三世』の楽曲を再録音したアルバムの音源をまとめた「ルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY」(2003年、コロムビア)がお奨め。ルパン・サウンドのルーツを聴くことができる。

 『ルパン三世』第1シリーズは視聴率がふるわず、全23話で終了。しかし、再放送で評価が高まり、1977年に一部のキャストとスタッフを一新した新作TVシリーズが放映されることになった。音楽を担当したのが大野雄二である。
 『ルパン三世』は大野雄二が初めて手がけたアニメ作品だ。ジャズ・ピアニスト、アレンジャーとして活躍していた大野雄二は、70年代から放送音楽の世界で作・編曲家として活動を始め、CM音楽や「パパと呼ばないで」(1972)、「水もれ甲介」(1974)などのTVドラマの音楽でキャリアを築いていた。しかし、大野雄二の名が広く知られるようになったのは、『ルパン三世』と、その前後に担当した角川映画作品「犬神家の一族」(1976)、「人間の証明」(1977)、「野生の証明」(1978)の成功によるところが大きいだろう。『ルパン三世』がなければ、その後の『キャプテンフューチャー』(1978)や『スペースコブラ』(1982)といったアニメ作品への大野雄二の参加もなかったかもしれない。
 『ルパン三世』第2シリーズのオープニングテーマは、当時のアニメには珍しい、歌の入らないインストゥルメンタル曲。斬新だった。黒っぽい山下毅雄の音楽に対して、大野はウエストコーストの匂いのする洗練されたジャズ/フュージョンのスタイルを採用。日本のアニメ音楽のイメージまで大きく変えてしまった。当時、ファン活動にどっぷりつかり始めていた筆者は、テーマ曲を聴いて「これは今までの“テレビまんが主題歌”とは違うぞ」とぞくぞくした記憶がある。
 テーマ曲の作曲にあたって、大野雄二はあえて最先端のサウンドを避け、少し和風テイストを取り入れた親しみやすいメロディ作りを心がけたという。日本人好みで、さまざまにアレンジを変えても飽きのこないメロディ。これが、30年の長きにわたる人気の秘密だろう。「ルパン三世のテーマ」は’79年版、’80年版とアレンジを変えて録音され、TVスペシャルでも新たなヴァージョンが録音されているが、それぞれに違う表情が楽しめる。筆者はヴィブラフォンをフィーチャーした小粋な’80年版がお気に入りである。
 歴代『ルパン三世』テーマ曲をまとめて聴くことができるアルバムというと、2007年に発売された2枚組CD「LUPIN The Best」(コロムビア)がお奨めだ。TVシリーズ全作品と劇場版第4作(『ルパン三世風魔一族の陰謀』[1987])までのテーマ曲・主題歌が年代順に収録されており、聴き比べるのにもうってつけである。三波春夫が歌う「銭形音頭」が収録されているのもポイントが高い。
 「2枚組までのボリュームはいらないから、もっと手軽に『ルパン三世』の音楽をまとめて聴きたい……」という方は、「LUPIN THE BEST! PUNCH THE ORIGINALS!」(2001年、コロムビア)を。REMIX企画アルバム「PUNCH THE MONKEY !」から派生して発売されたこのアルバムは、TVシリーズの楽曲を中心にしたベスト・アンソロジー。歴代テーマ曲のみならず、劇場版『ルパン三世 カリオストロの城』の中で使用された「サンバ・テンペラード」などの劇中曲も聴くことができる。ドライブ・通勤・通学のおともにも格好の1枚だ。

 TVシリーズの制作が途絶えてからも、『ルパン三世』は年1作のペースでTVスペシャルの制作・放映が続けられている。こちらの音楽も大野雄二が引き続き手がけているが、70年代の『ルパン三世』と今の『ルパン三世』を比べると音楽の肌触りは大きく変わっている。1995年頃から大野雄二はジャズ・ピアニストとしての活動を再開し、ライブにも精力的に出演するようになった。それとともに『ルパン三世』の音楽もぐっと「生っぽさ」が強くなってきたのだ。
 『ルパン三世』のタイトルだけで「音楽はいつもの大野雄二ね」と聞き流してしまうアニメファンは、ぜひ最近のTVスペシャルのサントラを聴いてほしい。アレンジと演奏に凄みを増し、進化したルパン・サウンドに、がつん! とくるようなパワーを感じるはずだ。そして、きっとライブを聴きたくなると思う。筆者も近年の大野雄二のライブに何度か足を運んだ。そこでは、現在進行形の「ルパン三世のテーマ」を聴くことができる。
 1995年以降の大野雄二のルパン・サウンドは「ルパン三世 TVスペシャルBEST」(2000年、バップ)と「DIVA FROM LUPIN THE THIRD」(2007年、バップ)にまとめられている。特に後者は、女性アーティストと『ルパン三世』の出会いが生んだ魅惑のボーカル・アルバムとしても聴ける1枚である。

 こうして歴代『ルパン三世』の音楽を聴いたあとで、菊地成孔による「LUPIN the Third  峰不二子という女」のサントラ盤を聴くと、菊地成孔が山下毅雄とも大野雄二とも違うルパン・サウンドをめざそうとしているのがわかってくる。思えば、1971年のヤマタケ・ルパンは当時のアニメ音楽として最高にとんがっていたし、1977年の大野雄二の音楽もアニメ音楽の新たな地平を拓くサウンドだった。そして今、大野雄二はジャズ・ピアニストの原点に戻ってふたたび『ルパン』の音楽を追求し、菊地成孔という尖端的作家がユニークで新しいルパン・サウンドを生みだしている。「『ルパン三世』という作品には、作曲家を本気にさせる何かがあるんだろうな」と思わずにいられない。『ルパン三世』の音楽は進化し続けているのだ。
 『ルパン三世』の音楽は追いかけがいのあるタイトルである。「もうわかった」という気になっていると、新たな発見や新しいサウンドとの出会いがある。幻の1971年版オリジナル音源の探求も含めて、『ルパン三世』の音楽からはまだまだ目が離せない。銭形のとっつぁんにならって叫ぶしかない。「ルパンを追え! 地の果てまでも追うんだ」と。

ルパン三世 THE 1st SERIES ANTHOLOGY

COCX-32149/2625円/コロムビアミュージックエンタテインメント
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LUPIN The Best

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LUPIN THE BEST! PUNCH THE ORIGINALS!

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ルパン三世 TVスペシャルBEST

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DIVA FROM LUPIN THE THIRD

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LUPIN the Third 峰不二子という女オリジナルサウンドトラック

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