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012『銀河鉄道の夜』(1985年・劇場)

テキスト担当/磯部正義

【あらすじ】

 病に臥った母と2人暮らしの少年・ジョバンニ。漁に出たまま帰ってこない父を待ちわびながら、放課後には活版所で働き、わずかなお金を受け取る生活を送っていた。星祭りの夜、級友ザネリの心ない言葉に傷ついたジョバンニは、逃げ出すように街外れにある丘の頂へとやってくる。そのとき突然、星空の彼方から巨大な機関車が現れ、ジョバンニの前へと停車した。驚きながらも客車に乗り込んだジョバンニ。そこには、星祭りに参加しているはずの親友・カムパネルラの姿があった。

【解説】

 宮澤賢治の代表作に数えられる同名原作を、杉井ギサブロー監督が劇場アニメ化。死との端境を行き来する少年の冒険と祈りを、独自のリズム感に満ちたスタイルによって描き出した本作は、前衛性と郷愁をきわめて高い次元で合致させており、公開後27年を経てなお、常に新しい観客に対して刺激的であり続けている。
 猫の姿をした主要キャラクターのデザインはますむらひろしのマンガ版にインスパイアされたものであり、キービジュアルとして忘れがたい印象を残す。彼らが旅することになる、美術の馬郡美保子や設定デザインの児玉喬夫らによって造形された作品世界は、本作の大きな魅力のひとつだ。ジョバンニたちの暮らす街なみには、本作のため敢行されたスペインロケから得たとおぼしきイメージが溢れ、また舞台が夜空を巡るに至って登場する抽象的でありながらも温かみを宿した光景は、見るものの想像力をかきたてずにはいない。
 その作品世界にいっそうくっきりした輪郭を与えているのが細野晴臣の音楽である。ミニマルなタッチを残した劇伴は幻想的な映像にぴたりと寄り添い、その一方でメロディは、どこか素朴で懐かしい旋律を手放さない。その印象は作品の印象そのものであり、音楽は文字どおり、映画にとっての通底音を形作っている。
 アニメにおける観念的な表現、その可能性にあってひとつの到達点と呼ぶべき、極北の一本。

●スタッフ

原作/宮澤賢治
原案/ますむら・ひろし
脚本/別役実
音楽/細野晴臣
アニメーション監督/前田庸生
美術/馬郡美保子
設定デザイン/児玉喬夫
作画/江口摩吏介、猿山二郎
撮影/小山信夫
編集/古川雅士
効果/柏原満
録音/林昌平
音響/田代敦巳
助監督/はしもとなおと
監督/杉井ギサブロー
製作プロダクション/グループ・タック、ヘラルド・エース
声の出演/田中真弓、坂本千夏、堀絢子、一条みゆ希、島村佳江、大塚周夫、納谷悟朗、金田龍之介、常田富士男

銀河鉄道の夜

107分/カラー
価格/4935円
発売元/アスミック
販売元/角川映画
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