COLUMN

第5回 機材充実月間

●2012年9月22日土曜日(779日目)

 スケジュールの締め切りまでがとても短い仕事を、とあるところから泣きつかれてしまった。今は映画作りの作業をちょっとのあいだだけ中断して、それをやっている。
 去年(2011年)の夏前から、準備作業ばかりをしてきたので、思えば、『この世界の片隅に』のためのスタジオとしては、原動画や仕上や背景の実物が絡む作業は1年以上ぶりになる。資料の本の山と、本棚と、描いたものだとか地図類を貼り出す壁面と、絵コンテ用紙と、せいぜい写真データやシナリオのためのパソコンくらいで仕事してきていたので、機材もロクにそろっていない。せっかくの機会なので、この際、この先の映画制作で必要になる機材を整えてみることにした。
 QARことクイックチェッカーのソフトはしばらく前に入手済みだったのだが、パソコンとカメラを用意しなければならない。もう少しいえば、カメラを固定するスタンドも調達しなければならない。
 色のチェックをするためのカラーマネージメントモニター。それ用のパソコン。素材データを収めておくためのハードディスク。カラーマネージメントモニターのための適正な環境を作り出すための暗幕。
 いろいろと買い込まなければならない。

 QAR用のテーブルには、このあいだまでこの準備班で会議テーブル(といっても3人しかスタッフがいなかったのだが)として使っていたものを回してしまった。なので、われわれ自前の会議テーブルがなくなってしまった。
 カメラとカメラスタンドはなんとかなったのだが、クイックチェッカーのタイムシートと動画画面を別々のモニターで出したいという欲にかられて、自分の机のノートパソコンにデュアルにつないでいた24インチのモニターを供出しなけらばならなくなってしまった。デカいモニターがあると、写真資料だとかスタッフに見せて説明するときに便利だったのだけれど。実はこの「説明用」モニターは2代目で、初代のは昨年春に買って最初のロケハン前に地図を映したりしていたのだが、なぜか突然映らなくなってしまっていた。広島にモニターをもっていって現地の方々にいろいろお見せする機会があったのだが、映ったり映らなかったりするモニターをわざわざもっていくわけにもいかず、急遽買い込んでいたのがこの2代目「説明用」モニターだった。ということは、2代目を供出しても、初代のを修理すれば、もう一度自分の机の上でデュアルに使えるのではないか。と思い立って、修理屋さんに持ち込んでみた。
 「中の基盤がやられてますね」
 ということで、これは処分。
 QARのタイムシートを映すモニターは、中古のを買ってきた。

 色の調整やチェックに使うパソコンはMAPPAの方で買ってもらったのだが、どうもスペックが足らない。デカい背景をつつきつつ撮出ししようとすると、すぐに固まってしまう。
 いたしかたなく、自前でもうちょっとよいのを調達する。
 キャリブレーションできるモニターもMAPPAの方で買ってくれたのだが、どうも、液晶モニターのバックライトが均一ではなく、画面の端の方が光が漏れたように明るくにじんでいる。これは不安なので、もっとちゃんとしたカラーマネージメントモニターを再度買ってもらう。こんどのは9月11日発売の新製品だ。だが、結局、15日になって配達されてきた。
 暗室を作るための暗幕を買ってきて、といったら、色のついた遮光カーテンを買ってこられてしまった。おまけに光沢のある布地で、ちょっと不安なので、これも真っ黒いのに買い換えてもらう。
 暗幕は自分の仕事机のすぐ真横にしつらえてもらった。これまでずっとマスターモニターが遠くにあって、ひどいときには別のフロアにあったりして、仕事を切り替えるたびに移動がたいへんだったのだけれど、これからは椅子をぐるっと回して振り向くだけですむ。
 この暗幕の中でカラーマネージメントモニターを載せているパソコンデスクは、このあいだまで自宅でうちの次女が勉強用に使っていたものだ。次女はこの机で病気の子猫を介抱したりもしていた。結果的に残念なことになってしまい、この机でみまかった子猫の墓碑銘が天板の上に、次女の手になるサインペンで記されている。そのまま、使っている。

 こうした一切合財は、これまでの数作品で助手を務めてくれた白飯ひとみが今回もついてくれるので、望ましい作業環境を作り出すために、今までの経験を活かしてかかることができる。
 これを書いている今は9月22日で、本来ならば明日には完成するはずだったのだが、考えつく限りいろいろなアクシデントに見舞われて、原画が全カットできあがってくるのがこの夜半、零時頃になるのではないかといわれている。
 そうした状況になってしまったことも、我々の初期的故障なのだとすれば、この際、反省点は搾り取れるだけ搾り取っておきたい。今日のところはこれ以上書く余裕がない。