COLUMN

第195回『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その20

「抜け始めてわかる、髪はなが〜い友だち」ってなTVCMがかつてありましたが、実は僕もそんな心境に直面しております。いやはや(汗)。ここ数年で徐々に生え際が後退してきておりましたが、ここ数ヶ月、というか、この夏一気に髪が薄くなって参りました。50を前にして年内陥落の危機!いやはや、いやはや(大汗)。
実のところ、円形脱毛症も何ヶ所か患ってるぽいのですが、さすがに前髪のぬけっぷりは年齢による薄毛・脱毛だろうなあ、な感じです。ううむ、自分がこんなコトでいろいろ考える日が来るとはなあ(苦笑)。ま、父方の兄弟の禿ッぷりを考えれば、なるほどある程度は予測できたことなんですがね。さすが家系、血は争えぬ(笑)。それでも父は最後までもちこたえていたからなあ。
さて、そうなってくると俄然気になってくるのが「増毛」とか「植毛」とかの文字。それにTVCM(笑)。いやあ、気にして見てると、実にいろんなのがあるんですな! あらためてその技術とかにビックリであります! とりわけあの接着剤みたいなのでどんなとこにも髪をつけられるやつとか。もうああなるとなんかもう特殊メイクみたいなモンですね(笑)。
まあ、将来的に僕が何らかの手立てを取るのかはまだまだわかんないですが(笑)、ちょっといろいろ注目ですな!

さてさて。

第17話 許されざる者 絵コンテ/幾原邦彦・中村章子・相澤昌弘 演出/中村章子・相澤昌弘 色指定/秋元由紀

入院中の陽毬にタコ焼き食べさせようと機材食材一式病室に持ち込んでタコ焼きパーティな高倉兄弟。一方、桃果へのそれぞれの想いをそれぞれ確かめる多蕗とゆり。ナイショのプレゼントのために病室を抜け出し毛糸探しな陽毬と苹果。その地下で繰り広げられる真砂子VSゆりの死闘。そして多蕗に拉致られる陽毬と苹果。そんな17話。
いよいよ物語が大きく動き出す、そんな予感に満ちた17話であります。この17話は演出が2人。前半を中村さん、後半を相澤さんが担当してます。いろんな意味で盛りだくさんな17話になりました。

先ずは前半、冒頭のタコ焼きパート。
もうね、いきなりのスプラッタなシーン(笑)。イイ感じのリアル感が素晴らしいです!あの弾力があるタコの足をまな板に包丁をぐいぐいと押しつけるようにして切る、ペンギンたちの奮闘の作画がなんとも!(笑) さらには3チャン(ペンギン3号)が「必殺! 仕置き人」ばりにあの……あ、あれなんて言うんだろ? タコ焼きひっくり返す千枚通しみたいなヤツ、をタコに向かってビシッ! ビシッ! 投げつけるカットとか。あの一連は西垣さんの作画だったように記憶してますが、『輪るピングドラム』の作画で僕的に5本の指に入るいい作画シーンでありました! ああいう感じのリアルはかなり好みなので、ラッシュ見て嬉しかったです!
この作品の「命」である「食べ物はおいしそうに見せる」ってことで、タコ焼きにはかなりのチカラを注いでおります。ただ惜しむらくは、アツアツのタコ焼きの上でカツオ節が踊るカットが作れなかったこと(笑)。薄く削ったカツオ節を3Dでふわふわとやりたかったのですが、スケジュール的その他でさすがにムリでした(笑)。
病室のシーンから続くクリスタル・ワールドのシーンは、コレまで見せてきた明るく少しコミカルでさえある描写から一転、シリアスで不安感のある画面を見せました。陽毬(プリンセス)と冠葉の関係に落ち始めている「陰」を表現しようと、キャラクターも空間も、特殊な色遣いでまとめています。変化したあとの空間のイメージを中村さんから聞いて、撮影さんからレイヤー別にかき出してもらったクリスタルの空間のpsdデータを僕の方で色を変えて組み上げていきました。先に空間のイメージを固めていきつつ、並行して頭の中ででき上がって来てたキャラクターの色味を乗せて調整して撮影へ。にじみなどを加えて空間の深みを作ってもらってでき上がりでありました。
前にも書いたかもですが、この『輪るピングドラム』では、後半戦、登場人物の内面世界とかを描いてるシーンではキャラクターの主線(輪郭線)の色を通常のシーンの黒いものとはハッキリと変えてみようと考えていました。なので今回のこのクリスタル・ワールドのプリンセス=冠葉のシーンも主線を青系に変えてます。前半1クール目ではそういうお話の展開は抑えられていたのですが、後半戦は一気にその割合が上がります。

17話前半のもうひとつのヤマは、夜景を眺めながら展開する多蕗とゆりのシーンであります。
部屋の照明を消して窓外の夜景の灯りの中での静かなシーン。このシーンでは夜景の東京タワーの照明の黄色い色味と微発泡の白ワインの色をシンクロさせて立たせました。桃果のためのグラスを用意して飲んでいる多蕗とゆり。多蕗、ゆり、とその間に東京タワー(桃果)という構図。この部屋の空間で一番明るく目を引く「色」として、また3人を繋ぐものとして、2人が飲んでいる白ワインの色と夜景の東京タワーとを揃えています。ワインの瓶に東京タワーが写り込むカットや、便の向こう側に東京タワーが見えるカットは、僕が撮影スタジオに入って撮影監督の荻原氏と一緒に作り込みをしました。瓶が東京タワーを柔らかく包んでる感じを作りたかったのでした。

さて、後半、Bパート。「ヨザワヤ」ですよ、「ヨザワヤ」。もちろん元ネタはユザワヤさんです(笑)。越阪部さんにヨザワヤ関係のロゴなんかのデザイン作っていただきまして、紙袋や毛糸玉のラベルに貼りまくらせていただきました。これがまたイイ感じのリアルを作る重要な部分になりました。
劇中、池袋駅西武口前の路上で冠葉が晶馬と電話で話すシーン。ここで冠葉が「ヨザワヤへ行ってみる」って言ってるんですが、これ、監督の勘違い。監督、池袋にもユザワヤさんがあると勘違いしてたのです(ちなみに池袋にあったのはキンカ堂さん。でもそのキンカ堂もすでになくなっております)。で、そのことは演出打ち合わせ時に発覚したんですが「まあ、別にいいんだよ。ヨザワヤは池袋にもあるんだよ!」ってことで(笑)。実際そこまでキッチリなぞる理由はないのですからね(笑)。
この池袋西武口や新宿大ガード近くの某家電量販店とか、僕が写真を撮ってきて作画参考に使ってもらってます。13話のホテルの外観もそうでしたが、演出さんも制作も忙しくて写真撮りに行けないので、じゃあ! ってことで撮ってきました。実は池袋西武口はそのあとの話数でも大々的に登場だったので、いろいろ位置関係とか見て確認しておきたいというのもあったのでした。
で、そんなヨザワヤの地下駐車場で展開する一大決戦!(笑) ゆりの武器はサンシャニー歌劇団のロゴ入りボウガン、真砂子は赤玉ガトリング砲。ゆりのボウガンは確か「歌劇団の小道具」っていう設定だったような気が(笑)。赤玉ガトリング砲は……これはKIGA製なのか? 夏芽財団の兵器部門製なのか(汗)。
このシーンやその前の店内のシーンでのゆりのLOUIS VUITTON風のブランドカバンは、越阪部さん製のゆりのモノグラムを貼り込んだもの。この一連の貼り込みは、確か僕がほとんどやったような。動き1枚1枚に合わせてPhotoshopで変形させて貼り込んでます。このバッグ、ちゃんとやると3Dでモデル起こしてって話になりそうで、そんな余力もないし撮影さんで貼り込んでもらうには大変だし、ってことで僕の作業に。
そんな感じで、この頃になると、僕はもう色彩設計だけじゃなくて、僕にできること可能なこと、ありとあらゆるコトやってました。演出打ち合わせから参加して意見出して、美術ボードの発注、美術打ち合わせ、色彩設計やって、色指定さんと打ち合わせして、背景のあがりを演出さんとチェックして、彩色上がりのデータの加工もやって、オールラッシュで総合的なリテイク出しやって、その直後から撮影さんのスタジオに詰めて納品までリテイク撮影の交通整理やって、と。そんな状況を毎週こなしていくことになっていきます。

ちなみにこの17話、編集は8月24日。アフレコが確かその翌週。絵コンテが上がったのが編集直前で、編集アフレコはコンテ撮で進めてもらいました。演出打ち合わせは編集当日の深夜だったかと。それから作画打ちあわせを一気に組んで、美術設定の打ち合わせが演打ちの3日後。美術打ちあわせは9月16日。撮影打ち合わせが10月1日。オールラッシュが21日。で、V編納品が25日で24日から撮影に泊まりこみでリテイクの追い込みの陣頭指揮でありました。そんな17話。
これ以降、そんな状況、追い込みが最終話まで毎週続いていくことになるのであります。