COLUMN

第3回 道を求めて

●2010年8月7日土曜日(2日目)

 これをやりたい、と思ってから原作を読み進める。
 いろいろ思うところがある。
 何より、「これは自分に関係がある」という感覚を強く抱く。
 もう少し理解を深めたい、と思って、同じ作者の別の作品も取り寄せてみる。

●2010年8月8日日曜日(3日目)

 引き続き繰り返し読む。

●2010年8月9日月曜日(4日目)

 丸山さんに、いくつかの企画を提示してみる。
 これまで何度か企画案としてもてあそんできたものばかりだったが、丸山さんには初めて見せるものには「ほう!」という反応もあった。
 本命はまだ繰り出さない。今ここでそれを持ち出して、のっけに否定されでもしたらと、つい身構えてしまうのだった。これまで自分から「これを作りたい」と思ったものは、何ひとつ実現されずにきた。5分でも10分でも長く、まだ可能性があるのだと思いつづけていたい。
 とはいえ、いつかは話し始めなければならない。
 「で、先週いってたのはこれなんですが」
 と、取り出してみる。
 丸山さんの目が丸く見開いた。「なるほど!」という感じで。
 「だけど、この本はもうあちこちで手がついてるんじゃないかな?」
 すでにあちこちで企画化の手がつけられているかもしれない。それがいちばん怖かったのだが。
 とりあえずこっちにください、と、本は丸山さんの手元に引き取られていった。
 その日のうちに原作の出版社に問い合わせが行われたらしく、丸山さんに呼ばれて結果を聞かされる。やはり、すでに映像化権が設定されていたらしい。
 「なので、次のタマも用意してください」
 といいつつ、けれども、と丸山さんがつづけた。
 「可能性がまだあるとしたら、原作者に直接話してみることかもね」
 どこにその道があるのだろうか。
 のちのち実は身近なところにも道がいくつかあったことを知らされるのだが、この時点ではちょっと途方に暮れてしまった。考えられるところにあちこち聞いてみたが、道はなかなか見つからない

●2010年8月10日火曜日(5日目)

 原作は丸山さんに手渡してしまったのだが、もうひと組届いている。なのだが、手が届かないかもしれない原作をこれ以上開くとどうしようもない気持ちになってしまいそうだったので、同じ人が描いた別の本だけを読むことにする。
 セキセイインコを飼う蕎麦屋の女店員の4コマ漫画。
 山田洋次監督が、同期の大島渚監督の作風の華々しさと自分を比べて、むしろ中華そば屋の店員の恋愛みたいなものに焦点をあててしまう、というようなことを書いていたのだけれど、ついそんなことを思い出してしまう。

●2010年8月11日水曜日(6日目)

 メールが届く。
 その後、原作出版社の方へもう一度連絡し、『マイマイ新子と千年の魔法』の監督の企画としてなのですが、というようなことをいったところ、映像化などの担当者の方がたまたまこの映画をすでに観ておられ、そのスタッフとこの原作の組み合わせには意味がある、と思っていただけたらしい。急に話が前向きになったとのこと。
 設定済みの映像化権は実写のTVドラマのためのもので、アニメーション化はまた別になる、というような確認もしてもらうことができた。
 その夜、また原作を開くことができた。

●2010年8月12日木曜日(7日目)

 ノートを1冊買って、物語の背景となる世界について調べごとをはじめてみる。

●2010年8月13日金曜日(8日目)

 原作出版社へ話をしにいくのは再来週を予定、先方から簡単な企画書を求めてきているので僕の方で書いておいてもらうのが一番といわれる。本当のスタートラインは再来週の向こうにある。自分はまだそこに立てていない。
 丸山さんから、今 敏さんの病状を聞く。話しつつ、あの丸さんが一瞬泣く。

●2010年8月16日月曜日(11日目)

 この時期作りつつあるOVAシリーズ5本のうちの第3話の編集作業。フィルムで作業していた昔は、編集など1本についてそんなに何度もやらなかったものだが、デジタル編集になってからは何回も行って、ワークリールを繰り返し更新するようになった。この日はダビング前の最終挿し替えなので、この編集でさまざまなタイミングを定めきらなくてはならない。以降はタイミングの変更ができなくなる。この頃は企画だけでなく、そうした実作業も行っていた。

●2010年8月19日木曜日(14日目)

 夕方より調布のキンダー・フィルム・フェスティバルで『マイマイ新子と千年の魔法』の上映と舞台挨拶。丸山さんたちも来る。

●2010年8月20日金曜日(15日目)

 フジテレビ「めざましテレビ」で、『マイマイ新子と千年の魔法』を取り上げてもらう。
 昨年11月に公開した映画なのだが、観客からの上映リクエストや署名活動などがあって、いまだに現役として扱ってもらえている。

●2010年8月22日日曜日(17日目)

 川崎のしんゆり映画祭、小学校の校庭で『マイマイ新子と千年の魔法』の野外上映。

●2010年8月24日火曜日(19日目)

 闘病していた今 敏さん逝去の報。今さんは、作りかけの映画『夢みる機械』を残して往ってしまった。
 こちらは新しい企画書を書かなければならない。
 久しぶりなので企画書の書き方なんて忘れてしまったような気がする。忘れちゃったなら、今まで自分ではやってこなかった書き方をしちゃおう。