COLUMN

第194回『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その19

いわゆるお盆休みが終わっちゃって、「24時間テレビ」でビミョウに今年も地球が救われて、ああ〜いよいよ夏も終わりって感じがヒシヒシと。陽も短くなっちゃいましたしねえ……。夜にはそこここから秋の虫の音が……って、あ〜いやいやまだまだ蝉が元気な東京・中野です(笑)。これ書いている8月最後の週末では、我が家の周囲では連日、っていうか連夜、まだまだ蝉たちが大合唱だったりしております。
ヤツら、日中の激暑い時間帯は鳴かずにジッと木陰で体力温存してるようで、夕方、陽が落ちる頃から鳴き始め、深夜気温が下がってからが「勝負!」みたいな(笑)。そんなまだまだ残暑厳しい夏の終わりであったりします。でもね、そんな蝉たちの夏ももうそろそろなんですね。もうあとひと月もおかず秋分を迎えちゃう、そんな夏の終わりです。
あ! 学生のみんなは夏休みの宿題とかこれからなんですかねえ?(笑)

さてさて。

第16話 死なない男 絵コンテ/幾原邦彦・金子伸吾・古川知宏 演出/金子伸吾 色指定/大塚奈津子

真砂子がやっと手に入れた日記の半分はゆりの仕込んだ真っ赤な偽物。そして真砂子が語りはじめる自らの過去の物語。恐るべき祖父・佐兵衛との思い出? 確執? そんな祖父の亡霊の呪縛。そんな16話。

物語も中盤、このシリアス展開のまっただ中、まさかの「ギャグ回」でありました。絵コンテ受け取って、読んで爆笑! でも、こういうギャグ回って「照れ」があってはダメなんですよ。ギャグの部分はちゃんとシッカリとギャグに振り切ってやりきらないと、中途半端な残念な出来になりがちです。なので、演出打ち合わせでさらに内容を濃く盛っちゃいました(笑)。そうそう、演出は金子氏。ヘンなの演らせたら、もうね、やはりこの人です!
でも実は、この16話、内容的にとっても重要な回だったんですよね。ギャグで目線を逸らしてますが、KIGAマークつきのトレーナー着て冠葉少年が現れたり、真砂子と冠葉の過去の関係の一端が明らかになったり、真砂子の父親は実は「どこか」へ行っちゃってたり、と、いろんな真実と新たな謎が散りばめられた回でありました。はい。

さて、この16話の主役、真砂子の祖父・佐兵衛翁。最初から「顔を見せない方がいいね」って話になっておりまして、7話での「ゆりについての苹果の妄想」で登場した「権力者」のように、顔の前に紙貼っちゃおうって話になっておりました。たぶんコレは設定について漠然と監督や金子氏と話してる時にそんな話になった記憶が。で、顔に貼る紙の文字は、今回はカット数も多いことから、ちゃんとした素材を用意して撮影さんに貼り込みをお願いすることになりました。
ちゃんとした素材……。そう、ちゃんと毛筆でシッカリ書き上げたものをどど〜ん! と貼ろう、ってことに。やはりそのヘンはゴージャスなまさに権力がある感じを、と。それでたしかスタッフどなたかの知り合いのツテで書道家の方にお願いしたのでありました。ん? どなたかのお母様だったかな? まあ、佐兵衛用の「祖父」はまだしも、キャバレーのアジア系おねえちゃんたちの「マンゴー」とか、書いてくださった方はどんな使われ方するんだろ? とか想像されてたんでしょうかねえ(笑)。
佐兵衛の貼り込みは「祖父」の文字だけではなく、羽織の夏芽家の家紋もすべて撮影さんで貼り込みしていただきました。さらには左肩の肌に浮き上がった家紋のアザも同様です。家紋のアザ、これがまた謎で、気がついたら設定に描かれてて、「えっ? これアリなの?」と訊いたら、「うん、アリで!」と金子氏と監督。う〜む、別になくってもいいんじゃないかなあ? って思ってはいたんですが(作業大変だし、実際撮影リテイクかなり出ちゃったし)、でも今となっては、家紋アザのない佐兵衛は想像できないなあ。
いつも佐兵衛の隣にいて、やたら英語で喋りまくってる若干目障りな白人系外国人がいましたが、彼は一体何者なのか、本編中まったく説明されなかったですね(笑)。実は彼は「佐兵衛の海外の友人」という設定になってまして、佐兵衛も彼を身近においていた(たぶん屋敷に一緒に住んでた)結構重要(?)な存在、みたいな話になってました。ちなみに僕の最初のキャライメージは『あしたのジョー2』に出てきたカーロス・リベラのマネージャーでした。で、中南米系な肌と髪色で仕上げたんですが、がっはっは(笑)、超似すぎちゃって大爆笑だったんですが「逆にわかりにくい(笑)」ってことで、普通に金髪な白人になっていったのでありました(笑)。
キャラクター的には、そうそう、連雀さんですね! もうね、ここぞとばかりにコバルトブルーなブラジャーで攻めてみました。はい。これは僕の趣味です(笑)。この連雀さんに出会ったときから、彼女はコバルトブルーなブラジャーをつけているに違いない! と(笑)。いやあ、大正解だったでしょ? この回のこの連雀さんでハートを鷲掴みされちゃった方も少なくないハズ!

さて、色的には今回も色指定の大塚さんにたくさんお願いしちゃいました。ちゃんとした設定の出ないもの、たとえば佐兵衛の着せ替え関係、ゴルフウェアとか釣りオヤジ姿、板前姿とか。他にも少女真砂子の変装姿たちとか。そういった原画さん合わせなシーンはほぼ大塚さんに色作っていただいちゃいました。
そして、やはり、なんと言っても、ふぐ刺しですね!
僕自身、人生で4回くらいしかふぐ刺しって食べたことないんですが、とにかく「透けてた」っていう記憶が(笑)。資料の写真見てもなんかそんな感じでありましたし、「じゃ、透けさせなきゃ」と。で、その透けた感じを想定して、まず大塚さんに色を作っていただいて、それを特殊効果の山田さんに投げて作り込んでいただきました。でもお話上、そこそこのカット数登場するふぐ刺しをいちいち作り込んで行くのはかなり大変。なので、ほぼ真俯瞰から捉えたアングルのふぐ刺しのカットをひとつ作り込んで、それをいくつものカットで使い回してます。撮影さんで角度変えて貼り込んでもらったり、僕が無理矢理パーツ描き足したり。さすがに、箸でぐわあ〜っと浚うカットは作り込み切れませんでしたが、そこは作画の勢いでOKな感じで!
そんな感じでみんなで頑張った「ふぐ刺し」でした(笑)。
でもね、やっぱりね、「ふぐ刺し」みたいなそういうの本編に出すのなら、ほら、リアリティは要るわけだし、そりゃあ取材が必要ですよね! アニメ作りは体験が肝心! やっぱ実際に食べてみないと! その「透け」具合ひとつにしてもホンモノ体験は必要ですよね!! というわけで、今度「ふぐ刺し」が出るアニメに当たったら、エライ人説得して必ず関係スタッフで実際に「取材」しに行かねば! と強く強く思ったのでありました(笑)。