COLUMN

第279回 空バカと出崎監督と新作!

『空バカ』の主人公・飛鳥拳はただただ強い奴と闘い続けるんです!

 まるで孫悟空か何かみたい。昭和のどのスポ根主人公よりも「強さ」だけにひたすら拘り、「地上最強の空手」を証明する事に命を懸ける男、それが飛鳥拳なのです。それだけに子供の頃よく観た『空バカ』が岡部英二さんと共同監督とはいえ、

「出崎統作品」である!

と知った時——たしか中3の時買ったアニメージュの出崎統特集記事に載ってたフィルモグラフィーでだったと思いますが——正直「えっ?」と思ったもんです。その時『ガンバの冒険』や『元祖天才バカボン』が出崎作品であった事も同時に知ったんですが(遅っ!)、そっちは全然違和感はなく、「ああなるほど、そういわれてみると」って納得できたんです。ただ、こと『空バカ』に関しては、なんか首を傾けていました。そういえば今から数年前、『BLACK CAT』以来「板垣は出崎統ファン」だと脳裏に焼きつけられたであろう矢吹健太朗先生より、

今、ケーブルで『空手バカ一代』を観てるんですが、
これって出崎監督なんですね〜

とのメールをいただいたんですが、たぶん矢吹さん的に観ても、俺が『BLACK CAT』のホン読みの時熱く語った出崎演出っぽく見えなかったのではないでしょうか。実際、高2〜3(?)の頃、レンタルビデオで『空バカ』を借りて(当時昭和の名作アニメが続々とソフト化されてたので、再放送を待たずともレンタルビデオで事足りたんです)観直しても、やはり3回PANもなければ入射光(当然当時はブラシで描いた)もない。そして何よりも

カットつなぎに他の出崎作品のようなキレがまったくない!

んです。少なくとも前半の数巻(てことは10数話分)観た限りでは、出崎演出ならではのアップとロングの切り返しや大判セルのスライドなどは皆無でした。あまりの肩透かしに後半はレンタルしなかったくらい(もしかしたらそのレンタル店に後半自体が入荷してなかったせいかもしれませんが)。
 で、ここからは想像・憶測・仮説(?)なのですが、出崎さんは前半はほぼ関わっていない(本心では「まったく」と言いたいのですが、あまりにも確証がなさすぎるので)のだと思われます。何しろ前半には1本も「崎枕」コンテがありません。あとフィルモグラフィ的に見ても、『空バカ』の前半は同じく出崎監督作品『(旧)エースをねらえ!』とスケジュールが丸かぶり(『空バカ』は1973年10月3日で、『エース』が同年10月5日!)なんです。
 あれだけ出崎色の濃い『エースをねらえ!』と同時進行で『空バカ』にそんなに深く関われるハズがありません! あと、数々のアニメ資料本(?)などにある「岡部英二と共同(監督)/全話」という表記自体がかなりあやしいと思っています。なぜなら前述の「アニメージュ」における出崎特集には

『空手バカ一代』(東京ムービー製作)
’73/10/3〜’74/9/25 CD(岡部英二と共同。シリーズ途中より)

とハッキリ「シリーズ途中より」と記されてます(おまけに1980年の「アニメージュ」における「東京ムービー特集」での『空バカ』解説枠には、出崎さんの名前がなく「演出 岡部英二」とのみ記されてました)。

よって「『空バカ』は出崎さんが『エース』が終わった後に参加した作品なのでは?」説を自分は唱えているわけです。ひょっとしたら本放映時、シリーズ前半「演出 岡部英二」の単独表記版オープニングが存在したのかもしれません。『元祖天才バカボン』の「作画監督 芝山努」テロップ版のOPが現存していない(DVD-BOXブックレットの「おことわり」参照)のと同様に、再放送版やソフト版で全話後期版テロップのOPに差し替えられた類かと……。ま、以上あくまで憶測でした。ご容赦ください。
 で、話を「『空バカ』と他の出崎アニメとの違和感」に戻します。例えば『あしたのジョー』や『エースをねらえ!』にしても、止め絵だ入射光だといった画面上のテクニック云々ではなく、ジョーやひろみなど主人公たちの主観と、それらを追うドキュメンタリータッチのバランスが絶妙で、これこそはテクニックなどではない、極めて生理的な作家センスによるもので、スポ根に限らず『バカボン』『ギャートルズ』などのギャグものでも貫かれてた出崎ワールドでした。その出崎ワールドに『空バカ』はなかったわけ。

ところが!

後半出てくるんです、出崎テイストが! 俺の観た限り、第31話「恐怖の赤さそり」のラストあたり、リング上から消えた飛鳥拳の気配を探る赤さそりの不意をついて一撃を食らわす件は、いかにも出崎演出っぽいんです。もちろん出崎統(崎枕)コンテじゃないんですが、何かしらチェックをされてなければこうはならないと思いました(あ、ちなみに2年前に中古で買ったDVD-BOX1、2でこれが確認できた時は嬉しかったし、高校の時シリーズ後半を観なかった事を後悔しました)。続く第32話「ボクシングとの死闘」も汗だくでダラ〜っと長髪を垂らしてる飛鳥拳の描写もそれまでなかったものだし、極端に寄った瞳のドアップなどのカットも増え、ネタが「ボクシング」との対決だというのも相まって、徐々に『あしたのジョー』ふうになっていきます!

そしてついに来たる「崎枕」コンテ話数!!

の話は次週で、とりあえず自分が今作ってる

『てーきゅう』

が正式に発表になりました。各話2分のミニシリーズですが、すでに全話コンテは終了して、今は鋭意作画中!! ま、話せるのはここまでか。