SPECIAL

009『TOKYO GODFATHERS』(2003年・劇場)

テキスト担当/岡本敦史

【あらすじ】

 あるクリスマスの夜──元競輪選手のギンちゃん、元ドラッグ・クイーンのハナちゃん、家出少女ミユキのホームレス3人組は、ゴミ捨て場でとんでもない「落としもの」を拾ってしまう。それは生まれたばかりの赤ん坊だった。ハナは勝手に赤ん坊の名前を「清子」と決め、自分で育てようとするが、ギンちゃんの説得で赤ん坊の親を探しに行くことに。ところが、その行く先には様々な騒動が待ち受けていた。

【解説】

 ジョン・フォード監督の名作『三人の名付親(3 Godfathers)』を下敷きに、鬼才・今 敏がファンタジックな人情喜劇に挑んだ劇場長編第3作。それぞれワケありの宿なしトリオが、天使のような赤ん坊との出会いをきっかけに「奇跡」へ導かれていく姿をテンポよく描く。アニメーション制作は『PERFECT BLUE』『千年女優』に続いてマッドハウスが担当。
 主人公がホームレスだったり、シニカルで意地悪なユーモアも満載だったりと、ツイストを十分に利かせながら、今監督は自己流の「ハートウォーミングな娯楽作」をきっちり作り上げてみせた。起伏に富んだストーリー展開の中に、アクションシーンも含めた見せ場をバランスよく配置し、最後まで飽きさせない。その語り口の妙をまずは楽しむべき作品だ。また、それまでの作品に比べれば遥かに地に足のついた現実寄りのドラマでありつつ、時折登場する夢や幻想のシーンに、過去作と同質の鮮烈なスリルが張りつめるあたりもファンには嬉しい。
 本作は特にキャラクターの芝居を重視した作りになっており、コミカルで表情豊かな人物描写が全編に貫かれている。キャラクターデザイン(今監督と共同)と作画監督を務めたのは、スタジオジブリ出身の小西賢一。アニメーションならではの柔軟性を追求しつつ、緻密なリアリティも兼ね備えた作画スタイルが面白い。それに応えた声優陣(江守徹、梅垣義明、岡本綾)の好演も聴きどころ。
 東京の様々な表情をリアルに描いた、池信孝による美術も見どころ。実写と見紛うほどの質感醸成、精緻を極めたディテールは、もはや比類なきレベルに達している。今監督が愛した東京の姿は、永遠にこの作品の中に刻み込まれている。

【スタッフ】

監督・原作/今 敏
脚本/今 敏、信本敬子
キャラクターデザイン/今 敏、小西賢一
作画監督/小西賢一
美術監督/池信孝
音楽/鈴木慶一、ムーンライダーズ
アニメーション制作/マッドハウス
声の出演/江守徹、梅垣義明、岡本綾、飯塚昭三、加藤精三、石丸博也、山寺宏一、こおろぎさとみ

『東京ゴッドファーザーズ』Blu-ray

発売日/2012年11月21日
価格/5980円(税込)
発売・販売/ソニー・ピクチャーズ・エンタテイメント
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