COLUMN

第188回 『輪るピングドラム』色彩設計おぼえがき その15

先週チラッと書きましたが、某新作TVシリーズのロケハンで中国・雲南省の麗江まで行ってきました。なかなかの強行軍だったワケですが、ははは、最後にいやはやなオマケがついちゃって。実は北京からの帰国便が天候不良でまさかの欠航! 航空会社手配のホテルで1泊、翌朝の振り替え便での帰国となったワケであります。
ご一緒した美監さんはかなりのダメージ受けてらっしゃったご様子ですが、僕はもうなんか段々楽しくなってきちゃって、この状況をウキウキと堪能させていただいちゃいました(笑)。だってこういうのって、めったにあることではないじゃないですか! まあ誰かが死んじゃうワケじゃなし。希有な体験、プライスレスであります。
とはいえ、帰国翌日に予定してた打ち合わせをキャンセルさせていただいたりとか、僕待ちの案件関係にいろいろご迷惑おかけしちゃいましたが、そのぶん、がんばって巻き返していきますよ!

さてさて。

第13話 僕と君の罪と罰 絵コンテ/幾原邦彦・古川知宏、演出/市村徹夫、色指定/大塚奈津子

3年前の回想は続く。公安が高倉家を訪れて平穏だった日々が終焉を迎えたあの日の記憶。TVにより知らされる両親の真実。驚愕の兄弟。ICUでは眞悧の謎のアンプル薬で一度は命の火が消えた陽毬が生き返る。そして眞悧の邂逅。桃果と眞悧。過去と現在(いま)をつなぐ様々な事実があらためて明らかになっていく、そんな13話。
13話は12話からの直結話。ICU周りも回想シーンの取り扱いも、基本的なシーン設計は12話の引き続きな感じに仕上げました。全体に連続話な『輪るピングドラム』ではありますが、この12、13話は、続けて2話で1話な感じで作ってます。
そんなこの12、13話、ここが物語の前半と後半の大きな転換点となりました。とりわけこの13話では、実はペンギン帽=桃果というがネタばらしされてたんですが、ネット上でいろんな方の感想を見る限り、意外と皆さん気づいていらっしゃらなくて、こっちの方がびっくりするほど(苦笑)。ええ? そんなに分からなかったですか? あんなに分かりやすい演出、カットの積み上げしてたのに(笑)。

というわけで、密かにネタばらししてた桃果でありますが、この13話で初めて桃果の実体が登場したワケです。
桃果のデザインが僕の手元に来たときに考えてたコトは、苹果と桃果、ディテールは違うんだけど、ひょっとしたら基本の色味は同じでいいんじゃないか? あるいは同じ方がいいんじゃないのか? と考えて、一度はほぼ苹果と同色のカラーデザインを監督に見せてます。
でも、違った(笑)。
監督に見せるべく監督呼んで自分のモニターに苹果色桃果を出した瞬間、監督が口を開く前に「これは違った!」と自分で確信しちゃいました(笑)。そもそも苹果は桃果ではない、別の人格であるわけで、そのためにはちゃんと別の色を用意して桃果を構築してあげないといけないワケでありました。となれば話は早い。考え方を切り替えれば、自ずと目指すビジュアルは明確になります。で、その場で監督とサクサクッと決め込みして決定したのがあの桃果であります。
ちなみに自分的にも「そうかな?」とは思ってましたが、一応監督に訊いてみました。
「桃果、髪どうする?」
「桃色!」
あ、やっぱり(笑)。

ネタばらしといえば、あの地下鉄が実はモノレールであったというコトも、この13話でのネタばらしでありましたね。最初の最初、この『輪るピングドラム』の準備が始まった時点では、あの地下鉄、もっともっとたくさん描かれる予定でした。柴田くんに駅のホームやら改札周りやら、たくさんたくさんアイデアスケッチを出してもらって、ちゃんとそういうシーン作る予定だったんですが……「やめよう!」という監督のひと言である日ひっくり返りました(笑)。柴田くんは呆然としてましたが、なるほど、SFちっくにあの地下鉄周りを描くことは、結果的に『輪るピングドラム』では要らなかったですね。
回想シーンでもいろいろあります。
玄関の下駄箱の上にこれ見よがしに(笑)にKIGAリンゴが積まれてる件、「これはいいの? 大丈夫なの?」と演出打ち合わせ時に監督に突っ込んでみたんですが、これといって明確なお答えを得られないままスルー(笑)。
また、高倉家を訪れる公安の刑事、女性の方が赤いマニキュアしてるんですが、これ確か演出の市村さんの指示。市村さん的にはもっとハデ赤な感じでということだったんですが、「あんまりハデだとなんかニセ者の刑事っぽくなっちゃわないですか?」ということで、抑えめにあんな感じに落ち着きました。
兄弟が連れて行かれたホテル、外観は西新宿の京○プラザホテルだったりしてますが、外観を見せてるあのカット、参考写真は僕が撮ってきたものを使ってくれてます。ホテル後ろの空を流れる雲も写真のフンイキそのまんまです(笑)。さすがにホテル内は撮ってくるわけにはいかず、ラウンジでビール1杯だけ飲んで退散。そしてその足で新大久保の音響スタジオへ。「こっそりピングドラム」に初出演のその日の出来事でありました。

さて、この13話最大の悩みどころは、実は回想シーンの食卓に登場した、鶏の唐揚げでありました。鶏の唐揚げ……これが何をどうやっても、鶏の唐揚げに見えない(笑)。なぜか? これ、作画さんには申し訳ない話なんですが、作画の問題。やはり作画でちゃんとそういう形になっていないと、いくら色をいじくりまわしても、やはりそれふうには見えないんですよ(苦笑)。鶏の唐揚げは、鶏皮の部分とそれ以外の柔らかな部分の描き分けがあってこそ、鶏の唐揚げの質感が作れるわけで、鶏の唐揚げが大好きな僕としては、可能な限りがんばって加工を試みたんでありますが、忸怩たる思いでオンエアとなってしまいました。ちなみにBlu-ray&DVD用では真っ先にその部分の修正をしてます。もちろん作画から(笑)。

そしてこの13話からエンディングが変わりました。その話はまた次回。